EPA制度で採用し国家資格取得まで伴走、宗教・生活への柔軟な配慮で定着を支える介護事業者の実践
茨城県筑西市で通所介護やグループホーム、サービス付き高齢者向け住宅などを展開する株式会社セキショウライフサポートと、同じ関彰グループに属する社会福祉法人関耀会。両法人はEPA(経済連携協定)制度や特定技能制度を活用してベトナムやインドネシアから介護人材を採用し、試験費用の全額負担や学習環境の整備(講師、テキスト)で国家資格取得まで伴走しています。加えて、グループ全事業所で共通化した評価制度や、宗教・文化への柔軟な配慮、住宅確保から行政手続きまでの生活支援を包括的に整備し、外国人材が安心して働き続けられる環境をつくっています。
介護分野の人手不足に直面しながら、外国人材の採用や定着にどう取り組めばよいか模索している県内企業の方に、具体的なヒントを提供できる事例です。両法人の取組を、担当者や外国人材本人の声とともに紹介します。

(写真:企業提供)

(写真:企業提供)
採用難のなかでEPA制度を選んだ理由
セキショウライフサポートと関耀会が外国人材の採用活動に踏み切ったのは2019年のこと。コロナ禍のさなかで、介護業界の採用難は近隣地域でも深刻化していました。
「初めて雇用したのは2020年です。コロナ禍真っ只中でした。本当に人が採用できなくなって、現場が悲鳴を上げている状況でした。」と担当者は振り返ります。「先が見えない未曾有の事態と入職が重なって不安も大きかったが、EPA(経済連携協定)に基づく介護福祉士候補者の受入制度だったので、安心して受け入れを始めました」
国が関与する制度であることへの信頼感が、最初の一歩を後押ししたといいます。
EPA制度は、インドネシア・フィリピン・ベトナムとのEPA(経済連携協定)に基づき、介護福祉士の国家資格取得を目指す候補者を受け入れる仕組みです。公益社団法人国際厚生事業団(JICWELS)が唯一の受入調整機関として、候補者と受入施設のあっせんを担っています。
現在、両法人には在留資格「介護」で4名、特定活動(EPA候補者)で5名、特定技能5名が在籍しています。採用にあたっては、面接の際に必ず「日本で介護士として働く理由を確認するそうで、「お金を稼ぎたいだけではなく、資格取得や学びたいという向上心のある人でないと、介護の仕事はむずかしいと思っています。」と担当者は確信し、採用の入口から、キャリア形成を見据えた人材を選んでいるようでした。
国家資格取得を支える「合格伴走」の仕組み
就業時間内に1時間の学習を保障し、試験対策費用は企業が全額負担
両法人の受入体制で最も特徴的なのは、EPA候補者の国家資格取得に向けた支援の手厚さです。
「EPA(候補者)のスタッフたちは資格取得する事が制度の目的。ですので、試験対策の費用は全てサポートします。」と担当者は明快に語ります。就業時間内に1時間の学習時間が確保されており、試験対策にかかる費用は企業が全額負担しています。
こうした支援体制は、外国人材の側から見た職場選びの基準にもなっています。
「うちでは就業時間内に1時間の勉強時間があり、そういった点が選ばれるポイントでもあると思います。」という担当者には、人材確保の競争において、学習支援の充実度が『選ばれる職場』の条件になっているという実感がありました。
介護はコミュニケーションの密度が高く、日本語能力への要求も高い職種です。
「介護は、ご利用者様の言葉だけではなく、表情からもさまざまなメッセージをくみ取り、それに寄りそう言葉がけや支援が必要になりますので、日本語能力は高く要求されます。」という担当者。
そのため、全ての外国人スタッフに、県が提供する介護福祉士試験対策講座やeラーニングも活用しながら、外部講習を含めた学習支援を組み合わせて運用しています。

(写真:企業提供)
グループ全事業所で統一した評価・教育の運用体制
セキショウライフサポートと関耀会は法人こそ異なりますが、同じ関彰グループの介護福祉部門として、規定・評価制度・教育訓練体系をすべて共通化して運用しています。「目指すものや大切にしている思いは同じです。」と担当者は話します。
月1回の面談では、チーム目標と個人目標の進捗を確認。半期ごとに行動評価を点数化し、面談結果と合算して総合評価としています。
「職能等級ごとに求められる行動を意識できるよう、毎月面談をしながら課題解決や悩みごとなど確認し最終的に目標達成ができるよう支援しています。そういった小さな成功体験が専門職としての成長に役立てられていると感じています。」
入職初期の教育も標準化されています。入浴介助やおむつ交換、感染症対策といった業務内容を、イラスト中心のスライドで説明。日本語だけに頼らず、視覚的に理解できる教材を整えています。また、安全衛生に関しては中央労働災害防止協会のパンフレットを活用しつつ、現場では必要な注意事項をその場に掲示する運用を徹底。社会保険の説明には年金機構や厚生労働省が提供する多言語資料を使い、控除の仕組みが理解できるよう対応しています。担当ユニットに配属になる前には、日本人スタッフとも相談し、一人立ちするまでのスケジュールやどのスタッフがOJTついても同じ指導ができるよう指導ポイントを可視化した資料を使って、スタッフ全員が受入に備える体制をとっています。
宗教・文化への柔軟な配慮と生活の包括的な伴走
休憩室を礼拝室に転用、ヒジャブOK、ハラル食材の確認
インドネシア出身の人材が入職したことを契機に、宗教・文化面の配慮も具体的に進みました。
「インドネシアスタッフが入職した際は、スタッフ全員に宗教や文化の違いについて説明をしました。宿直室を礼拝場所にしたり、ヒジャブの被り方は清潔感を大切にするよう一定のルールを作り、お互いが気持ちよく過ごせるよう配慮しました。」
懇親会の場でも配慮をします。「忘年会もつい最近開催しました。ハラル対応が必要なスタッフにはお肉やアルコール等(禁忌の食材が)が入らないよう準備しました。」
特別な対応というよりも、一緒に働く仲間として当然の気遣いを、日常の延長として実践しています。
「全部準備して一緒に行く」生活立ち上げ支援
外国人材が来日した直後の生活立ち上げは、両法人が特に手厚く対応している領域です。
「市役所の手続き、在留期間の更新、届出に必要な書類の準備、日本に住む為にはさまざまな手続きがありますが、その都度サポートしています。」
銀行口座の開設、携帯電話の契約まで、必要な手続きに担当者が同行します。
日常的な相談はLINEで一括対応。先に入職した外国人材が後輩の相談相手になるネットワークも自然に生まれており、「最近では生活(面の困りごと)についてはほとんどないです」と担当者が話すほど、生活面の課題は小さくなっています。また、ごみ出しのルールは筑西市・つくば市の多言語対応アプリや市役所の資料を活用し、交通ルールなども指導しています。

住宅確保の壁-近距離の社宅を確保
生活支援のなかで両法人が直面した大きな壁が、住宅の確保です。
「職場の位置やスーパーや公共機関を考慮しアパートを探しますが、その過程においては、外国人というだけで入居を断られる事もありました。」
外国籍であることを理由に賃貸を断られるケースは少なくなく、近隣での物件探しには苦労が伴いました。介護の仕事は早番や夜勤があるため、通勤の負担も見過ごせません。両法人では、なるべく事業所に近い場所に社宅を確保し、勤務シフトによる生活負担を軽減する配慮をしています。
現地で「顔を合わせる」採用活動と、茨城で働く母数を増やす戦略
採用活動においても、両法人は独自の工夫を重ねています。JICWELS(公益社団法人国際厚生事業団)が主催する現地でのイベントに参加し、母国語で作成したスライドを使って、職務や生活面について対面で説明しています。
「現地に行き顔を合わせて説明した方が、質問もできますしお互いに安心できます。」と担当者は話します。
また、今回初めて茨城県外国人介護人材獲得強化事業費補助金を活用して特定技能の採用も行いました。職場の魅力はもちろんですが、こうした機会に「茨城」の魅力も一緒に伝え、生活面での充実もPR。
こうした採用活動の根底には、「茨城で働きたい」と思う外国人材の母数そのものを増やしたいという思いがあります。人気の都道府県に人材が集中する現状に対して、「茨城県で働きたいと思ってくれる外国人材の母数が増える事を願っています。」と担当者が期待を寄せるのが茨城県の外国人受入優良企業等認定制度です。
この認定制度が、外国人材が就職先を比較検討する際の判断材料になることで、地方への人材流入が進むことを見据えて、セキショウライフサポートと関耀会は2026年2月に同制度の第1回認定を受けました。

外国人材の声-ベトナム出身・ズェン氏が語る職場と暮らし
来日5年目のズェン氏(関燿会)に、日本での生活や職場の様子を聞きました。
来日当初、日本の食事には慣れなかったというズェン氏。
「最初は、私、日本料理全然できない。(でも)今は慣れました。焼きそばが好きです。作り方も簡単です。」
日常の小さな変化のなかに、日本の暮らしに馴染んでいく過程が表れています。日本語能力はN3を取得済みで、「来年N2目指しています」と次の目標を見据えています。また、今年度は国家資格でもある「介護福祉士」を取得しました。
職場の雰囲気について聞くと、ズェン氏は「スタッフもいいです」と笑顔を見せます。同僚がインターネットでベトナムの文化を調べ、話しかけてくれるのだそうです。日本人スタッフが自発的に相手の文化を知ろうとする姿勢が、日常のコミュニケーションを支えています。ベトナムの旧正月(テト)の時期に帰国を希望する際も、職場でシフトを調整し母国の文化的行事への配慮も、自然な形で行われています。


セキショウライフサポートと関耀会の取組ポイントまとめ
介護現場で外国人材の採用・定着を検討する企業が取り入れられるアクションとして、両法人の取組を整理します。
- EPA制度を入口にし、資格取得と生活面でのサポート体制を構築する。
国の制度への信頼感を活かして採用のハードルを下げつつ、キャリア志向の人材を選ぶことで定着率を高められる。 - 就業時間内に学習時間を確保し、試験対策費用を企業が負担する。
本人のスキルアップが職場の力になる事と「選ばれる職場」になるための具体的な投資として機能する。 - 評価制度・教育訓練をグループ・事業所横断で統一する。
日本人材、外国人材どちらにとっても安心して働ける職場環境作り。 - 入職初期の研修はイラスト・視覚資料を中心に設計し、日本語力に依存しない理解を促す。
- 宗教・文化の配慮は、入職を契機に具体的な運用ルール(礼拝室の転用、服装、食事)設定と全スタッフに対し外国人材受け入れ目的の理解と相手国の文化を共有する。
- 生活立ち上げ(行政手続き・口座開設・携帯契約・住居確保)は担当者が同行し、LINEと先輩ネットワークで日常の相談に対応する。
- 住宅確保の壁を前提に、社宅の確保と通勤距離の配慮を早めに進める。
- 現地の採用イベントに参加し、母国語の資料を用意して対面で説明する。
担当者の声
最後に、担当者に今後の展望を聞きました。
「国家試験合格のための支援をどう強化していくかが一番の課題です。日本語能力の底上げも含めて、外部の講師やeラーニングをうまく組み合わせていきたい。また、せっかく日本で働くのだからうちで働いてよかったと思ってもらえるような経験ができるようサポートをし、そういった支援の形が認定制度を通して発信でき、茨城で働きたいと思ってくれる人を増やせることを願っています。」と担当者は思いを込めます。
外国人材が安心して働き、キャリアを築ける環境を地道に整え続ける姿勢が、両法人の取組を支えています。
外国人材の採用・受入でお悩みの企業様へ
法人のように、外国人材の採用や受入体制の整備を進めたい企業様は、茨城県外国人材支援センターにご相談ください。
茨城県外国人材支援センターでは、在留資格の選定から採用活動の支援、受入後の定着サポートまで、専門のアドバイザーが無料で対応しています。就業規則の多言語化、県が提供する日本語学習e-ラーニングのご案内など、企業の状況に応じた具体的なアドバイスが可能です。
「まず何から始めればよいかわからない」という段階からでも、お気軽にお問い合わせください。