「わからないまま進めない」を徹底する、つくば市の有機農園の受入体制
茨城県が2025年度に創設した「外国人受入優良企業等認定制度」。その第1回認定企業16社のひとつに選ばれたのが、つくば市で有機野菜を生産する株式会社ふしちゃんです。従業員52名のうち19名がインドネシア出身の外国人材。特定技能が12名(うち2号が1名)、技能実習が7名という構成で、全員がインドネシア国籍です。本記事では、同社が契約・就労・評価・生活・宗教のあらゆる接点でどのような受入体制を築いてきたのか、担当者の声とともにお伝えします。

有機農業と外国人材-ふしちゃんファームの概要
株式会社ふしちゃんは2015年に創業し、代表取締役の伏田直弘さんが有機JAS認証・ASIAGAP認証を取得しながら事業を拡大してきました。つくば農場(ビニールハウス61棟・約16,000㎡)と常陸太田農場(同52棟・約35,000㎡)の2拠点を運営し、小松菜やほうれん草などの葉菜類を中心に、有機いちごや米も手がけています。取引先は生協やスーパー、地元飲食店、学校給食など多岐にわたります。
インドネシア人材の受入を始めたのは数年前のこと。人手不足を背景に技能実習制度を活用したのがきっかけでした。「一番最初の実習生が、2025年の4月で3年が終わったので、4年目に入ってるのが一番古い方ですかね。」と担当者は振り返ります。そこから特定技能への移行が進み、現在は2号取得者も1名誕生しています。
契約書から始まる「母語で理解できる」仕組み
ふしちゃんの受入体制でまず目を引くのは、採用から就労開始までのあらゆる書類を日本語とインドネシア語の併記で用意している点です。雇用契約書、給与明細の読み方、社会保険の仕組みーいずれもインドネシア語の説明が添えられています。
この方針の根底にあるのは「納得していなければサインさせない」という考え方です。契約内容を母語で確認でき、疑問があれば質問できる環境を整えることで、入社前の不安や認識のずれを最小限に抑えています。給与から天引きされる税金や保険料についても、金額の内訳をインドネシア語で説明し、「手取りがなぜこの金額なのか」を本人が理解した上で就労が始まります。
安全衛生と生活支援-二言語化の徹底
農作業の現場では、安全に関する掲示物やマニュアルも日本語・インドネシア語の併記です。新しいスタッフが入った際には、作業開始前にハウス内を一緒に歩きながら安全上の注意点を確認するウォークスルーを実施しています。
生活面でも二言語化は徹底されています。住居は会社が近隣のアパートを手配し、家賃は給与から天引きする方式。入居時にはごみの分別ルールを写真とインドネシア語のテキスト付きで案内しています。こうした生活資料は、先に入居していたインドネシア人スタッフが後輩に教えるサポートにも自然と発展しました。
「先輩が自分の経験をもとに後輩に教えてくれるので、生活面の立ち上がりが早い。」と担当者は話します。
WhatsAppと二人体制-日常の「困った」をすぐ解決する
ふしちゃんでは社内に2名の外国人材サポート担当者を配置し、日常の相談に対応しています。連絡手段はWhatsApp。
「WhatsAppっていうアプリでつながってますので、郵便物が届いた時に「これ何?」って写真で連絡できる。」と担当者は説明します。届いた書類の内容がわからなければ写真を撮って送るだけ。行政からの通知や保険の案内など、日本語が難しい書類も即座にフォローできる体制です。
医療面では、外国人スタッフ向けに民間の医療保険に加入しています。公的保険で3割の自己負担が発生した場合、その分が保険で賄える仕組みです。「5年間で使ったのは3万円くらい」とのことですが、盲腸で入院したケースにも対応でき、外国人スタッフの安心感につながっています。
人事評価-数値化された基準と三段階の面談
外国人材の定着において、評価制度の透明性は見落とされがちなポイントです。ふしちゃんでは「作業評価60%、勤務態度30%、意欲成長10%」という配点を明示した評価シートを運用しています。
プロセスは三段階。まずスタッフ本人が自己評価シートを記入し、次に農場長が面談で評価をすり合わせ、最後に社長面談で最終的な評価が決まります。評価の観点と配点が事前にわかっているため、「何をがんばれば評価されるのか」が明確です。現在はコンサルタントの助言を受けながら評価シートをさらにブラッシュアップしている最中だといいます。
キャリアパス-技能実習から特定技能2号へ
ふしちゃんでは、外国人スタッフに対して入社時点から在留資格ごとのキャリアステップを提示しています。技能実習を修了した後、日本語能力試験N4以上を取得すれば特定技能1号へ移行できます。1号の期間中にリーダー経験を積み、さらに上位の試験に合格すれば特定技能2号への道が開けます。
実際に、同社では1名が特定技能2号を取得済みです。「同じ作業をしていても、在留資格が変わればできることが広がる。先の見通しがあるから、本人もモチベーションを保てる。」と担当者は語ります。こうしたキャリアパスの可視化は、外国人材採用を長期的な人材戦略として位置づけるうえで欠かせない取組です。

宗教・文化への配慮-「知らない」をなくす社内共有
19名のインドネシア人スタッフの大半はイスラム教徒です。
「イスラムの方がほとんどなので、その辺の配慮はどこの方にもしてもらうようにしています」という言葉のとおり、同社では宗教上の配慮を外国人スタッフだけの問題にせず、日本人スタッフ全員に共有しています。
具体的には、社内イベントでの食事に豚肉を使わないこと、礼拝の時間とスペースを確保していること、そしてこれらのルールをインドネシア語に翻訳したうえで社内規定として共有していることが挙げられます。新しく入る日本人スタッフにも、インドネシアの宗教や文化についての説明が行われます。「知らないから配慮できない」という状態をつくらない姿勢が、職場の信頼関係の土台になっています。
地域とのつながり-法被を着て神輿を担ぐ
外国人スタッフの地域への溶け込みも、ふしちゃんが大切にしているテーマです。近隣で行われた祭りでは、地域の方から法被(はっぴ)を借りてインドネシア人スタッフが一緒に神輿を担ぎました。日本の祭り文化に直接触れる経験は、地域住民との距離を縮めるきっかけになったといいます。
また、同社はJICA筑波の農業研修を年に数回受け入れており、海外からの研修員との交流の場にもなっています。こうした取組は、農園が地域社会に開かれた存在であることを示すと同時に、外国人スタッフにとっても「この地域で暮らしている」という実感を深める機会となっています。

取組のポイント-ふしちゃんの受入体制から学べること
同社の取組を振り返ると、受入体制の核にあるのは「すべての接点で、外国人材が母語で理解できる状態をつくる」という一貫した方針です。契約書の併記、安全掲示の二言語化、WhatsAppでの即時対応、評価基準の明示、宗教配慮の全社共有、キャリアパスの可視化、いずれも「わからないまま進めない」を具体的な仕組みに落とし込んだ結果です。
特に注目すべきは、これらが特別な投資や大掛かりなシステム導入ではなく、日常業務の延長線上で実現されている点です。既存の書類にインドネシア語を加える、使い慣れたアプリで連絡を取る、評価シートに配点を書く。一つひとつは小さな工夫ですが、それらが積み重なることで、外国人材が安心して働き続けられる環境が形成されています。

担当者の声-これからの課題と展望
「最初は手探りだった」と担当者は率直に振り返ります。書類の翻訳や宗教への配慮など、一つずつ課題をつぶしてきた数年間。現在は評価制度の高度化や、特定技能2号取得者をリーダーとして育成する段階に入っています。
「受入体制は一度つくって終わりではない。スタッフが増えるたびに、改善すべきことが見えてくる」という言葉には、19名の外国人材とともに成長してきた実感がにじみます。
外国人材の受入体制づくり、まずはご相談ください
茨城県外国人材支援センターは、県内企業の外国人材の確保や生活に関する相談、アドバイザーによる各種支援、日本語教育支援などを行っています。株式会社ふしちゃんのように、外国人材の受入体制を整備したい企業の皆様は、ぜひお気軽にご相談ください。