茨城県の総合商社・関彰商事が約10年かけて築いた、選考・住居手配・社内制度・文化配慮までを一貫支援する外国人材受入体制を取材しました。
IT人材不足を見据え、約10年前に採用を開始
関彰商事株式会社は、茨城県筑西市・つくば市に本社を置く創業118年の総合商社です。エネルギー、モビリティ、IT、生活支援の4事業を柱に、グループ全体で約2,350名の社員が働いています。
同社が外国人材の正社員採用に踏み切ったのは2017年。そのきっかけを、取材に応じたヒューマンケア部の渡邊部長はこう振り返ります。
「当時、IT人材の採用が年々厳しくなっていて、このまま国内だけで採用し続けるのは限界だろうと。それなら国籍にこだわらず、優秀な人材に来てもらおうという判断でした」
現在、従業員667名のうち15名が外国籍社員です。ベトナム、インド、ウクライナ、アメリカなど多国籍で、うち13名が「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ高度人材。ITエンジニア、企画、自動車整備など配属先も多岐にわたります。
2026年2月には、茨城県が新設した「外国人受入優良企業等認定制度」の第1回認定企業にも選ばれました。

「最終内定は日本で出す」-来日インターンシップによる採用
同社の採用プロセスが他社と大きく異なるのは、海外での選考と日本でのインターンシップを組み合わせている点です。
「弊社は違うんですよ。海外で説明して面接をして、ほぼこの人を採用したいっていう人を日本に呼んで、そこでインターンシップを実施します。職場はもちろん、生活環境も確認してもらい、『大丈夫ですか?』と確認して、最終内定を出す。」
まず、ベトナムやインドなど現地の大学や日本語教育機関と連携し、説明会・一次面接を実施します。この段階で候補者を絞り込んだうえで、約1週間、日本の職場に招きます。航空券や宿泊は会社が負担し、実際の業務を体験してもらいます。
この仕組みの狙いは明確で、「書類や面接だけでは分からない、職場との相性を双方が確認すること」です。候補者にとっても、茨城という土地での生活が想像できるかどうかを自分の目で確かめる機会になります。
さらに、選考段階で5年後・10年後のキャリアパスと給与モデルを具体的に提示しています。「やはり長い期間日本に来るわけですから、将来がどうなるのか見えないと不安ですよね。だから数字で見せるんです。5年後にこのポジション、給与はこのくらい、10年後はこうなりますよと。」
海外の優秀層は複数の国・企業からオファーを受けています。待遇の不透明さは辞退に直結するため、「入社前に将来を数字で見せる」ことが採用競争力に繋がっているといいます。
内定が出た後は、来日までの数か月間に提携先の日本語教育機関でN3レベルを目指した学習を進めてもらいます。入社時点で日常業務に支障がない語学力を確保することで、現場の負担も軽減されます。
来日初日から伴走する生活立ち上げ支援
同社の支援体制は、採用が決まった瞬間から始まります。来日当日から外国籍社員が「生活できる状態」にするために、会社が具体的に何をしているのかを一つずつ紹介します。
家具・家電付き社宅の手配
住居は会社名義で契約した社宅を用意します。家具・家電を揃えた状態で入居できるため、来日当日から生活が可能です。立地も職場から自転車で通える範囲を選んでいます。外国籍の個人が日本で賃貸契約を結ぶハードルの高さを考えると、このステップだけでも外国籍社員にとって大きな負担軽減になります。
行政手続きの同行サポート
来日後すぐに必要になる住民登録、マイナンバー取得、銀行口座開設や携帯電話のSIM契約などは、担当者が市役所や店舗まで同行して手続きを進めます。取材日にもちょうど2名の外国籍社員が入社するタイミングで、「ゴミ出しアプリの使い方まで説明するんですよ」と笑いながら話していたのが印象的でした。
銀行口座開設の直接相談
記事タイトルにした「銀行口座の相談」は、同社の支援姿勢を象徴するエピソードです。来日直後の外国籍社員が個人で銀行口座を開設しようとすると、在留期間や信用情報の問題で断られるケースが少なくありません。同社ではこの問題に対し、企業として金融機関に直接かけ合い、口座開設を実現しています。
「給与振込先がないと始まらないですから。本人に『自分で行ってきて』とは言えない。会社として銀行に説明して、開設できるようにしています。」
初給与までの生活準備金
来日してから最初の給与が出るまでの1〜2か月間は、収入がない状態が続きます。この期間の生活を支えるため、初給与までの生活費をカバーする準備金を支給しています。
ベトナム出身でありながら、今は外国籍社員の相談役としても活躍するニュン氏は当時をこう話します。
「来日して2か月、お金がないと本当に不安でした。会社が準備金を出してくれて、安心して仕事に集中できました。」
この「来日直後の経済的な空白期間」への手当ては、多くの企業が見落としがちなポイントです。
全社員共通の評価制度と新卒合同研修
同社では、外国籍社員と日本人社員をまったく同じ評価シートで評価しています。年3回の面談も全社員共通で実施し、国籍による区別は設けていません。
「外国籍だから甘くするとか、逆に厳しくするとかはない。同じ土俵で評価しないと、本人にとっても周囲にとっても納得感がないですから。」
ただし、運用面では工夫があります。自己評価のつけ方に文化差が出ることがあるため、面談では「なぜこの評価にしたのか」を丁寧にヒアリングし、擦り合わせる時間を多めに取っているそうです。
新卒社員の研修は、日本人社員も外国籍社員も合同で約1か月間実施します。ビジネスマナー、業務知識、安全教育などのカリキュラムは共通です。分けないことで「入社時点から同期としての関係」が生まれ、配属後の連携にも良い影響が出ています。
研修後はブラザー・シスター制度で先輩社員が1対1のメンターとして付きます。制度としては1年間ですが、実態としては2〜3年にわたってサポート関係が続くことが多いといいます。
「制度上は1年で終わりなんですけど、やっぱり気になるじゃないですか。自然と面倒を見続ける先輩が多いですね。」
一時帰国のための特別休暇制度
外国籍社員は母国が遠いぶん、年末年始やお盆の帰省が日本人社員のようにはいきません。同社ではこの事情を踏まえ、一時帰国のための特別休暇制度を設けています。
外国籍社員のための制度に対し、ニュン氏からは「本当にありがたい」と、企業に対する感謝の声が聞かれました。
日本語と英語、双方向の言語サポート
外国籍社員の日本語力向上だけでなく、日本人社員の英語力底上げにも会社として投資しているのが同社の特徴です。 雇用契約書や給与明細は、日本語と母国語の二言語で作成しています。社会保険の仕組みなど、日本特有の制度は「なぜ給与からこの金額が引かれるのか」まで丁寧に説明します。 「あまり多言語のルールを作っちゃうと、いつまで経っても日本語覚えないんで、そこはちょっとバランス見ながら。」 一方で、日本人社員に対しては大学と連携した英語学習プログラムを提供し、TOEICの受験費用も会社が負担しています。 「外国の人にばかり日本語を求めるんじゃなくて、うちの社員も英語学習の文化を芽生えさせる必要がある。双方向じゃないとフェアじゃないですから。」 この「双方向」の姿勢は、社内の受入意識を変えるうえでも効果があるといいます。「外国籍社員のために何かしてあげる」のではなく、「お互いに歩み寄る」という文化が自然に醸成されています。
宗教・文化への柔軟な配慮と地域活動
多国籍の社員が働く職場では、宗教や生活習慣への配慮も欠かせません。同社ではルール化よりも柔軟な対応を重視しています。
具体的には、宗教上の理由がある社員にはヒゲ(を剃らないこと)を許容したり、ベジタリアン向けの弁当を別途手配しています。ラマダン(断食月)の期間中は昼食のタイミングや業務負荷にも配慮。旧正月(テト)に帰省できないベトナム人社員向けには、部署単位で食事会を開催し、母国の調味料をプレゼントするなどの取組も行っています。
外国籍社員に限った話ではありませんが、同社では全社員が参加する地域ボランティア活動も実施しています。マラソン大会の運営サポートや地域のゴミ拾いなど、外国籍社員も日本人社員と一緒に参加しています。「会社の外」で一緒に汗をかくことが、社内の関係づくりにも良い影響を与えているそうです。
外国籍社員の声-「分からないこと」を伝えられる安心感
最後に、実際に働いている外国籍社員の声を紹介します。
ニュン氏は、日本での仕事についてこう語ります。
「日本人の考えが分からないことが多い。でも、分からないって言える環境があるのは大きいです。」
「分からない」と言えること自体が、職場の心理的安全性を示しています。同社がここまで紹介してきた制度や支援を一つずつ積み重ねてきた結果が、この一言に表れているように感じました。
同社の担当者も、茨城県外国人受入優良企業の認定を受けて気持ちを新たにしています。
「認定されたからには、恥じない行動を続けていかないと。まだまだ課題はありますが、一つずつ良くしていきます。」


関彰商事株式会社の取組から学べること
同社の事例から見えてくるのは、外国人材の受入は「採用して終わり」ではなく、来日前から定着後まで切れ目のない支援設計が必要だということです。
特に、インターンシップで入社前に職場との相性を確認する仕組み、来日初日から住居・行政・銀行をワンストップで立ち上げる生活支援、全社員共通の評価制度で公平性を担保する人事運用、日本語だけでなく英語学習にも投資する双方向の言語戦略、ルール化よりも柔軟さを優先する文化配慮―これらは規模や業種を問わず、多くの企業が応用可能な取組です。
外国人材の採用・受入でお困りの企業様へ
茨城県外国人材支援センターでは、外国人材の採用方法、在留資格の手続き、受入体制の整備について、企業からの相談を無料で受け付けています。
「何から始めればいいか分からない」「他社の事例を参考にしたい」といった段階でもお気軽にご相談ください。