日本語教育の内製化と評価の透明性で、インドIT人材の定着を支える
従業員の半数以上が外国人材-つくば発IT企業の受入体制を取材
茨城県つくば市に本社を構えるVeBuIn株式会社(ヴィビュイン)は、インド出身の代表取締役シャー バビック氏が2015年に設立したIT企業です。SAP・Oracle等の基幹システム刷新やAIプロダクトの運用を手がけ、従業員92名のうち54名が外国人材。その大半がインド出身のITエンジニアで、在留資格「技術・人文知識・国際業務(技人国)」で就労しています。
同社は、茨城県が令和7年度に創設した「茨城県外国人受入優良企業等認定制度」の第1回認定において、認定企業16社の中で唯一の「先進企業」に選ばれました。先進企業とは、優良企業の要件を満たしたうえで、外国人を役員に登用している、または複数名の外国人を管理職に登用している企業に与えられる認定です。同社では現在8名の外国人材が管理職として活躍しています。
インド現地の大学と連携した採用から、正社員の日本語教師による内製教育、日英併記の評価制度、来日前に始まる生活支援まで。各フェーズの仕組みを自社で一貫して設計・運用している同社の取組を取材しました。

VeBuIn株式会社と外国人材採用の背景
VeBuIn株式会社は、インド出身のエンジニアであるシャー バビック氏が、日本のIT企業で現場密着型のシステム開発を経験した後、2015年につくば市で立ち上げた会社です。取締役の川﨑氏は、同社の経営思想をこう語ります。
「日本は品質と改善、インドは技術とチャレンジ。その両方が好きなんです」
日本のきめ細かな品質管理と、インドの技術力や挑戦する文化。その両方を知る創業者だからこそ、双方の強みを掛け合わせる組織を設計できたといえます。現在、同社にはインドを中心に韓国の人材が在籍し、技人国45名のほか、永住者や高度専門職の在留資格を持つ社員も含めた多様な構成で事業を展開しています。
インド現地の大学と連携した採用活動
同社の外国人材採用は、インド現地の大学との関係づくりから始まります。
「大学とパイプを作らないと、そもそも何もスタートしない」と川﨑氏は断言します。SVNIT(Sardar Vallabhbhai National Institute of Technology)をはじめとするインドの大学で「JAPAN Day」を開催し、日本文化や日本で働くことの魅力を紹介。さらに自社主催のハッカソンで社会課題×技術に取り組んでもらい、技術力と志向を見極めます。採用面接だけでなく親御さんとの面談も実施し、家族の不安をケアしたうえで内定に至ります。社長やインド人副社長が要所で直接説明に立ち、日本国内での中途採用にはインドでも広く使われているSNS「LinkedIn」も活用しています。
内定後〜大学卒業そしてビザ手配から入社までは約1年あるため、まずインド現地の自社拠点で日本語や日本文化の教育を行い、実際の業務も経験させてから来日させるスキームを確立しています。新卒者には内定後にオンラインでN5~N4等の日本語学習も並行して進め、リーダー層として来日する人材にも来日前教育を義務化する方針に転換しました。
採用時にもう一つ重視しているのが、「日本で働く志」の見極めです。給与だけが目的ではなく、日本の文化にどれくらい関心を持っているか、来日後の生活の解像度がどの程度あるかを、採用段階で確認しているとのこと。JAPAN Dayでの文化体験もその一環です。
正社員の日本語教師4名体制による内製教育
JLPTだけでは測れない「業界用語の壁」を埋める
外国人IT人材の日本語力について、多くの企業が直面する課題があります。JLPTの級を取得していても、実際の業務では通用しない場面が出てくるという問題です。
人事マネージャーの伊藤氏はこう説明します。
「テキストに載ってない言葉が仕事上はどんどん出てくる。お客さんの前に出る前に、私たちが業界の言葉を教えてあげなきゃいけない。」
利益と売上と粗利の違い、棚卸・原価・監査とは何か。こうしたIT業界やクライアントの業界で使われる用語は、JLPTの教科書だけでは学びきれません。
同社では正社員として日本語教師を4名配置し、日本語教育を社内で内製化しています。来日直後はN5~N4レベルの日常会話からスタートし、その後はビジネス日本語、さらに顧客業界に合わせた個別指導へと段階的に移行します。集団指導だけでは一方通行になりやすいため、普段の会話量を増やし、個別対応に切り替えていく設計です。直近では全員がN3に合格することを目標に掲げ、よりビジネスをリードする日本語でのロールプレイや、そこからN2・N1への挑戦者も増やしていく方針です。

日本語教師が担う「サブメンター」の役割
日本語教育のもう一つの特徴は、日本語教師が「サブメンター」としての役割も担っている点です。2カ月に1回程度のヒアリングを通じて、体調やメンタルの変調がないかを確認し、日常的な相談のハブとなっています。伊藤氏によれば、日本語教師という立場が、業務上の上下関係とは異なるフラットな接点を生み、小さな不調の早期発見につながっているとのことです。
日英併記の評価シートと「自分たちで掴んだキャリア」管理職登用
「透明性がないと、とにかくトラブルになる」
外国人材の定着において、評価制度の透明性は不可欠な要素です。川﨑氏は、「この透明性は日本人以上に求められる。やらないと、とにかくトラブルになる。」と明言します。
同社の評価シートは日本語・英語の併記で、年2回の定期評価に加え、随時の推薦制度も設けています。社内には等級制度があり、等級「3」に達すると管理職として扱われます。管理職への登用時には、昇格前と昇格後の契約内容をビフォー/アフターで並べて提示し、基本給や手当の変更点-たとえば残業手当から管理職手当への移行-を一つひとつ説明したうえで本人のサインを得るプロセスを踏みます。
一般社員から管理職へ-8名の登用実績
同社の管理職登用で注目すべきは、インド人社長だから外国人管理職がいるという話ではない点です。一般社員として入社した外国人材が、社内で実績を積み、評価され、管理職に昇格しているケースが8名にのぼります。外国人の上司が日本人の部下を評価する場面もすでに生まれており、共通の評価シートを使うことで、国籍にかかわらず公平性を担保しています。
この仕組みが機能している背景には、評価基準を日英両言語で明示し、契約変更の内容をビフォー/アフターで可視化するという「透明性の徹底」があります。「何をすれば評価されるのか」「昇格すると何が変わるのか」が具体的に見えることで、外国人材にとってキャリアの見通しが立ちやすくなり、定着やモチベーションの向上にもつながっています。
リスキリングの機会も仕組みとして整備
直近では「OSアップデートプログラム」と呼ばれる社内のリスキリング施策も進めています。これはパソコンのOSが定期的にアップデートされるように、社員のスキルや知識も継続的にアップデートしていくという考え方に基づくもので、本人の強みや課題を複数の関係者からヒアリングし、多角的に把握したうえで学び直しの機会を提供する取組です。AI時代の技術変化に合わせた職務の変化にも対応する狙いがあります。
来日前から始まる生活立ち上げ支援と家族へのケア
住居確保から行政手続きまでの伴走
まずは来日する相手へのリスペクトの気持ちが大前提の上、「受け入れた人って自社の従業員でもあるんですけど、その後彼らにとっての異国である日本で生活をするっていうことがやっぱりあって。家族が病気になった時に病院に連れて行けるんですか、とか。そこがないとホームシックになって帰っちゃう」。
川﨑氏のこの言葉が、同社の生活支援の設計思想を端的に表しています。
住居は来日前にオンライン内見を実施し、会社名義で賃貸契約を結びます。契約更新時には個人名義に切り替え。来日前に家具や寝具をセットしておき、入社後の最初の数日間で銀行口座の開設、役所での手続き、ライフラインの契約に同行します。買い物への同行や社用車での送迎も行うとのことです。外国人対応の窓口がある不動産会社と連携し、入居前に全室を撮影して現状を共有、退去時のクリーニング費についても事前に合意を取る仕組みで、トラブルを未然に防いでいます。
配偶者の孤立防止と医療・健康サポート
家族への支援にも力を入れています。「奥さんが孤独にならないようにっていうのは結構力を入れてます」と川﨑氏。同社では、社員のみならず配偶者への日本語学習支援も行い、家族滞在の在留資格で就労を希望する方への後押しもしています。
医療面では、元看護師のスタッフが健康診断の受け方や結果の見方をレクチャーし、初回の受診には付き添いも実施。医療機関への動線をコーディネートする役割を担っています。
安全衛生・生活マナー教育と食文化への配慮
IT企業としての個人情報保護やセキュリティ誓約に加え、防災面では避難訓練を年2回、緊急連絡網の指導を年3回実施しています。掲示物は日本語と英語の2言語対応で、産業医による英語でのセミナーでメンタルヘルスについて、花粉症、インフルエンザ予防の重要性などを学べる機会をつくり、業務に集中できる環境づくりを行っています。
「毎年アップデートしていかないといけないんですよ。最新版を既存メンバーにもシェアしますし、来るメンバーにはOJTもやっています」と伊藤氏。ビザ要件の厳格化やマイナンバーと保険証の一体化といった制度変更にもその都度対応し、最新情報を社内に展開する体制を維持しています。
生活マナーについては来日前の段階から指導を行います。ゴミ出し・騒音・集合住宅のルールを事前に教育するのは、過去に近隣から苦情を受けた経験があるからです。「入り口で徹底します」と川﨑氏は語ります。
食文化への配慮も具体的です。社内の電子レンジはベジタリアン用とノンベジタリアン用に分け、フレックスタイムを導入しているので、ラマダン期間中なども柔軟に対応しています。社内イベント時は食品の成分表示(卵やエキスなど)を可視化して共有しています。

社内交流と地域コミュニティとのつながり
社内では毎月1回行う月例イベントで、その月に誕生日の方を祝い、来日したばかりの社員には自己紹介の発表機会を設けています。年に1回開催されるインド舞踊大会には日本人社員も参加し、国籍を超えた交流の場になっています。Teamsでは地域の祭りや映画の情報をシェアし、気軽に参加できる雰囲気づくりを進めています。
つくば市との行政面での接点も広がりつつあり、つくばスタートアップパーク等を通じた地域連携にも取り組んでいます。川﨑氏は「『みんなでやろう』にしたいんです」と語り、外国人材を受け入れている企業が単独で奮闘するのではなく、地域全体で支える仕組みの必要性を感じています。
外国人材の声と今後の展望
同社で働く外国人材に話を聞きました。開発マネージャーを務めるディパック氏は、「私はお客さんとチームのブリッジ(架け橋)です。お客さんの要件を確認しまとめて、チームメンバーにも説明します。」と自身の役割を語ります。AI専攻で入社した若手エンジニアは、「日本で業務を効率化するAIソリューションをつくって、業務と技術のつながりを作りたい。」と意欲を見せます。
在籍2年目のオム氏は、「この会社を友人に紹介したいです」と話してくれました。大学時代から日本語を学び、入社後も社内研修を続けきたオム氏は、会社の食事会やつくばのお祭りにも積極的に参加しているといいます。
今後について川﨑氏は、現在の「全員N3合格」という基盤をもとに、今後はクライアント様の業界用語のビジネスの日本語を学べるサポートや、N2・N1への挑戦者を増やしていく方針を示しました。インド現地では大学横断でのイベント定着や、現地での日本語教育の共同実施も視野に入れており、地域コミュニティとの交流もさらに広げていきたいとのことです。


VeBuIn株式会社の取組ポイントまとめ
外国人IT人材の採用や受入体制の整備を検討している企業に向けて、同社の取組のポイントを整理しました。
採用チャネルの構築
人材紹介会社に頼るだけでなく、現地の大学との関係づくりを採用の起点にする。文化体験イベントや技術コンテストを通じて、自社との相性を見極める機会を設ける
採用基準に「志」を組み込む
お互いがリスペクトできるか?が重要。スキルや資格だけでなく、日本で働くことへの動機や文化への関心度を採用段階で確認する
来日前の教育と業務経験
内定後すぐに来日させるのではなく、現地拠点での日本語教育や業務経験を経てから来日させることで、スムーズな立ち上がりにつなげる
日本語教育の内製化
JLPTの教科書にない業界用語を事前に教える仕組みをつくる。外部研修だけでは届きにくい「実務と日本語のギャップ」に、正社員教師の配置で対応する
日本語教師に相談ハブの役割を持たせる
言語教育と定着支援を分離せず、教師がサブメンターとして日常的な変調の察知と相談対応を担う
評価制度の日英併記と契約の可視化
評価基準や昇格条件を日本語・英語の両方で示し、契約変更時にはビフォー/アフターを提示して合意を取る。この「透明性の徹底」が、外国人材のキャリアの見通しと定着を支える
来日前から生活支援を開始する
オンライン内見、家具のセット、行政手続きの同行など、来日初日から「住める・動ける」状態をつくる。家族の孤立防止や医療サポートも視野に入れる
食文化・宗教への具体的な配慮
電子レンジの区分け、ラマダン対応、成分表示の共有など、日常の小さな配慮を仕組みとして整える
担当者の声
「演出ではなく、『日本人が迎え入れてくれた』っていう気持ちが増えることが一番大切」。 川﨑氏は取材を通じてこの点を強調しました。日本語教育、評価制度、生活支援。それぞれ別の施策に見えますが、同社ではこれらを「外国人材が日本で安心して働き、暮らし、成長するための一つの設計」として統合的に運用しています。一般社員として入社した外国人材でも自分のポテンシャルが発揮できる環境で磨かれ管理職に登用され、在籍2年目の社員が「この会社を友人に紹介したい」と語る。その背景には、トライ&エラーを日々しながらも、仕組みの透明性と、日常に根ざした地道な伴走がありました。
外国人材の採用・受入体制の整備でお悩みの企業様へ
VeBuIn株式会社のように、外国人材の採用から定着までの受入体制を整えていきたいとお考えの企業様は、茨城県外国人材支援センターにご相談ください。
センターでは、専門のアドバイザーが常駐し、外国人材の採用に関する相談対応、受入環境のコンサルティング支援、行政書士による無料相談会(毎週火曜日・要予約)などの支援を無料で提供しています。在留資格の選定や採用活動の進め方から、受入後の定着支援までサポートいたします。