声かけでN3合格、面接段階で住居確保-鍛造メーカーの外国人材受入の工夫

2018年の海外視察をきっかけに、現場発の工夫で17名の外国人材と働く職場をつくるまで

茨城県東茨城郡城里町に水戸工場を構えるフォージテックカワベ株式会社は、トラック・建設機械・農業機械用部品などの鍛造品を一貫生産するメーカーです。従業員約160名のうち、ベトナム・インドネシア出身の外国人材が17名在籍しています。
同社が外国人材の受入を始めた動機は、「人手不足の穴埋め」ではありませんでした。
「外国人材の勤勉さを会社に取り入れたい」―この言葉が、すべての出発点です。
フォーマルな日本語教育プログラムを持たずに実習生のN3合格を連鎖させた「雰囲気づくり」、面接の段階で住居を押さえる先行手配、NC旋盤の現場条件から導いた「掲示より言葉の指導」という判断。この記事では、同社が自社の現場条件に合わせて編み出した受入の工夫を、担当者と外国人材本人の声とともにお伝えします。

(左から)担当の横山氏、ソン氏、田中リーダー

フォージテックカワベと外国人材採用のきっかけ

同社は1938年の創業以来、鍛造技術を軸に事業を展開してきました。熱間鍛造・冷間鍛造・機械加工・熱処理の各工場を城里町の敷地内に備え、自動車や建設機械メーカー向けの部品を製造しています。
同社が外国人材の採用に踏み出したきっかけは、2018年の海外視察でした。総務の横山氏は、その経緯をこう振り返ります。
「人手不足っていうより、社長が2018年にベトナムへ海外視察に行ったとき、外国人材の真面目さ、勤勉さに強く惹かれたことがきっかけ。うちは『人がいないから』じゃなくて、もっと大きな枠組みで、外国人材の勤勉さを会社に取り入れたい、そこでした。」
翌2019年、同社は機械加工部門でベトナム出身の女性4名を技能実習生として受け入れました。この一期生の勤勉さが社内に手応えを生み、その後、技術・人文知識・国際業務(技人国)や特定技能へと受入の幅を広げていきます。現在はベトナム・インドネシア出身の17名が在籍し、鍛造・機械加工・設計など複数の部門で活躍しています。

住居と採用準備を自社で前倒しする段取り術

外国人材の受入にあたって、多くの企業が負担に感じるのが住居の確保や入社前の準備です。同社では、これらの段取りを自社で先行して進めるのが特徴です。横山氏はこう話します。
「他社さんが手間だと感じるところは、うちは独自の力で乗り越えています。アパートの確保も自社。面接に入った時点で物件を押さえに行っちゃう。(技能実習の)認定計画が下りてから『部屋どうしよう』ってならないように、段取りは全部やります。」
借上げアパートは工場から自転車で約4kmの距離にあり、技能実習・特定技能・技人国の外国人材が入居しています。基本は1室2名のシェアで、過密にならないよう配慮した運用です。
採用前の段階にも工夫があります。Web面談の際、カメラを持って、鍛造工場・加工工場・検査室を順にリアルタイムで案内する「バーチャル職場見学」を実施。候補者が入社前に職場の雰囲気や設備を具体的にイメージできるようにしています。さらに、内定連絡のメールは日本語とベトナム語を並列表記し、入社前から「伝わる」コミュニケーションを意識した運用を徹底しています。

「雰囲気づくりがすべて」-声かけと日誌で日本語力を底上げ

同社には、外国人材向けのフォーマルな日本語教育プログラムがありません。その代わりに取り組んでいるのが、日々の「声かけ」と「日誌」による習慣化です。横山氏はこの方針についてこう語ります。
「雰囲気づくりがすべてだったんですよ。声のかけ方ひとつで、結果が全然変わってくる。『どう、頑張ってる?』『どう、順調?』っていう、温かい声かけができるかどうか。ここは人間対人間の気持ちの部分です。事務的な言い方は絶対しない。」
朝と帰りの積極的な声かけ、生活指導員による日誌の運用。これらを「自分たちの成長につながる」という意味合いで続けてもらうことで、日本語を使う機会が日常に組み込まれていきます。受入時には「N3取得を目指してもらいます」と目標を明示し、技能実習2号が終わる3年以内にN3を受験する方針を徹底。一期生4名は全員がN3に合格し、その後の受入人材にも取得が続いているとのことです。
2025年2月には、国際交流協会の協力を得て「やさしい日本語講座」を社内で開催しました。加工・鍛造・熱処理など普段交わることの少ない部署をランダムに3グループに編成し、相手の立場に立ったコミュニケーションを体験するワークを実施。アンケートでは「相手の気持ちになって話すことの大切さに気づいた」という声が寄せられました。

「同じ仲間」として接する評価と役割の設計

同社では、外国人材に対して「実習生だから」「特定技能だから」という区分で扱いを変えることはしません。評価・賞与の仕組みも、日本人社員とまったく同じルールで運用しています。
「うちはね、特定技能とか実習生とか関係なく、評価制度は全く同じルールでやってます。賞与は年2回で、算定期間は半年。私が評価されるのと同じ期間、同じやり方で評価されて、同じように賞与の査定が出ます。」
就業規則には評価制度の詳細が記載されていますが、内容が難しい箇所もあるため、求めに応じて面談で丁寧に説明します。深夜勤務手当などは必ず対面で説明しています。
役割の段階は、ヘルメットの色で可視化しています。技能実習生は黄色、特定技能は緑。
色が変わることで本人にもステップアップの実感が生まれます。特定技能の人材には「実習生より一歩前に出て、先頭に立つ意識を持ってほしい」と伝えているとのこと。キャリアパスを提示することで、一人ひとりの成長の道筋を見える形にしています。

工場内の様子

NC旋盤の現場で選んだ「掲示より言葉の指導」

安全教育というと、多言語の掲示物やラミネート表示を充実させるのが一般的な方法です。しかし、同社の現場では事情が異なります。
「NC旋盤の機械の中なんて、ラミネートとか絶対貼れないです。メーカーから剥がしてくださいって言われます。だからこそ、指導員が徹底的に日本語で指導する形が適切、と判断しました。建設業なら大型標識が有効かもしれないですが、うちでは言葉による指導がベターです。」
入社時には、安全衛生担当者がベトナム語・インドネシア語の資料を使った研修を実施します。「なぜ安全第一なのか」という根本から多言語で説明した上で、現場に入ってからは指導員が言葉で徹底的にフォロー。現場には「走るな」などベトナム語の注意表示も配置しています。
学習面への投資も具体的です。特定技能2号の対策テキストやビジネス・キャリア検定の教材は、共有ではなく「個別に一冊」配布。田中リーダーが試験対策のフォローにあたります。「アパートに一冊じゃなく、個別に一冊」という方針からは、一人ひとりの成長に真剣に向き合う姿勢が伝わってきます。

工場内には熱中症対策等の母国語資料を掲示

多言語での労働条件説明と宗教・生活への配慮

外国人材が安心して働くためには、労働条件や社会制度を母国語で正確に理解できることが欠かせません。同社では、雇用契約書を日本語とベトナム語で併記し、通訳を同席させて説明しています。
入社後1週間以内には、総務がホワイトボードを使って日本の社会保険と所得税の仕組みを説明する時間を設けています。
「甲欄・乙欄などの詳細は難しいので、『給料があって、例えば2万円が天引きされる』みたいなイメージで伝えます。言葉と図が一番伝わりました。」
税や扶養の相談には国税庁の最新資料を用いて概念を助言しつつ、強制はせず助言に徹するという姿勢です。
宗教への配慮も、シンプルかつ明確です。「お祈りは自由にしてね、妨げないよ。」と方針をはっきり伝えています。食事面では、インドネシア出身者への配慮として、付き合いのある仕出し店に電話一本で豚肉なしの弁当を依頼。行政手続きや銀行口座の開設、病院の受診(歯科のレントゲン撮影まで)にも必要に応じて同行します。外国人材支援センターや国際交流協会の相談窓口情報を集めて印刷・配布するなど、外部の支援リソースも積極的に活用しています。
こうした日々の伴走の中から、外国人材同士の自走支援も生まれています。先に入社したベトナム出身の人材が、後から来たインドネシア出身の人材に日本語でゴミ出しなどの生活マナーを教える姿があるそうです。「ベトナムの子がインドネシアの子に日本語で教えてあげる。仲が良いんですよ。なんでそこまで仲良くなったんだ、っていうくらい」と担当者は笑います。

外国人材本人の声-ソン氏(設計・ベトナム出身)

設計部門で働くソン氏にも話を聞きました。
入社時の日本語能力はN3。来日後もeラーニングで学習を続け、現在はN2を取得しています。「入社時に安全教育を受けました。危険な場所や機械の使い方はグループリーダーに教わりました。現場には『走るな』などベトナム語の表示があります。」と、安全面の教育体制について話してくれました。
契約書はベトナム語と日本語の併記で、通訳も同席。給与や保険の説明も一緒に受けたとのこと。保険証を持ち、給与から保険料が差し引かれていることも理解しています。上司とは定期的に面談があり、仕事のことだけでなく将来についても話ができる環境だと語ってくれました。

茨城県外国人受入優良企業に認定

同社は2026年2月、茨城県が新たに創設した「外国人受入優良企業等認定制度」の第1回認定企業16社の1社に選ばれました。
「安心して入社してくださいねって思っていただける根拠材料の一つにしたいんです」
認定を営業上のアピールではなく、これから入社する外国人材への「安心の証」として活用したいという考えです。

同社の取組から、外国人材の受入を検討する企業が自社に取り入れられるポイントを整理します。

採用前の段取りを前倒しする

面接開始の時点で住居を確保し、認定後に慌てない体制をつくる。Web面談でのバーチャル職場見学や、内定連絡の多言語化も入社前の不安を減らす工夫になる

日本語教育は「雰囲気づくり」から始める

専門プログラムがなくても、朝夕の声かけ・日誌・N3目標の明示で日本語力は底上げできる。「事務的な言い方をしない」という意識が鍵

評価制度を国籍で分けない

賞与・査定を日本人と同じルール・同じサイクルで運用することで、「同じ仲間」という意識が浸透する

自社の現場条件から安全教育の最適解を逆算する

掲示物が貼れないなら「言葉による指導」を徹底する。現場の実情に合った方法を選ぶ

労働条件・社会保険は母国語+図で説明する

契約書の多言語併記、ホワイトボードでの概念説明、通訳の同席で「理解している」状態をつくる

宗教・食の配慮はシンプルに方針を伝える

「お祈りは自由」「豚肉なしの弁当を手配」など、一つひとつは小さな対応でも、安心感につながる

学習教材は「個別に一冊」投資する

共有ではなく一人ひとりに渡すことで、成長への本気度が伝わる

外国人材の採用・受入でお悩みの企業様へ

フォージテックカワベのように、外国人材の採用や受入体制の整備について相談したい企業様は、茨城県外国人材支援センターにご連絡ください。
専門のアドバイザーが、在留資格の選定から採用活動の進め方、受入後の定着支援まで、無料でサポートいたします。「何から始めればいいかわからない」という段階からのご相談も歓迎です。

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