外国人材を日本人と同じ物差しで評価。紹介会社に頼らない採用を実現した農業法人の仕組み

賃金テーブルの公開、資格取得支援、礼拝堂の設置-「特別扱いはしない、でも配慮は惜しまない」を形にする取組

茨城県那珂郡東海村に本社を構える株式会社照沼は、有機栽培のさつまいもと干し芋の生産・加工・販売を手がける農業法人です。1962年に干し芋の卸問屋として創業し、現在は約55ヘクタールの自社農園と食品加工工場を運営しています。従業員62名のうち20名が外国人材で、インドネシアやバングラデシュ出身のスタッフが、技術・人文知識・国際業務(技人国)や特定技能の在留資格で働いています。
同社の外国人材受入の歴史は10年以上に及びます。その経験の中で確立されたのが、国籍を問わず全従業員を同じ賃金テーブルで評価する制度と、勤続11年のインドネシア人課長を組織の要(かなめ)に据えた運営体制です。その結果、人材紹介会社を介さなくても採用希望者が集まる好循環が生まれています。
外国人材の評価・処遇をどう設計するか、採用コストをどう抑えるか、宗教や文化の違いにどう向き合うか―。同社の取組には、同じ課題を抱える県内企業にとって参考になるヒントが詰まっています。今回は、優良企業の認定を受けた同社を訪ね、常務執行役員兼管理部長の須藤氏、担当の菊池氏と、課長職を務めるインドネシア出身のフィクリ氏に話を聞きました。

今回、お話を伺った株式会社照沼の皆様

外国人材採用のきっかけ

株式会社照沼は、干し芋の全国シェア約9割を誇る茨城県の干し芋産業を代表する企業のひとつです。旧社名は照沼勝一商店。2021年に現社名へ変更し、現在は株式会社日本未来農業グループの一員として、有機JAS認定を取得した紅はるかの栽培から加工・販売までを一貫して行っています。干し芋の産地として知られる東海村の中でも、有機栽培に特化した県内最大規模の生産体制を持つ企業です。
現在、同社で働く外国人材は20名。内訳は、技人国が3名(インドネシア、バングラデシュ)、特定技能が16名(全員インドネシア出身。うち2名は特定技能2号)、家族滞在の資格外活動許可が1名です。従業員全体のおよそ3割を外国人材が占めています。
ただし、こうした体制が最初から整っていたわけではありません。須藤氏は当時をこう振り返ります。
「数年前までは、日本人は月給で、外国人は時給みたいな形だったんですけれども、同じテーブルにしました。『あなた方も日本人と同じテーブルで、特定技能を目指して頑張ってください』という話をしています。」
以前は日本人と外国人で賃金体系が異なる二重構造がありました。そこから脱却し、国籍を問わない単一の評価制度を築いたことが、現在の組織の出発点になっています。

国籍を問わない賃金テーブルと評価制度の運用

全従業員に公開された賃金テーブルと昇格基準

照沼の評価制度の最大の特徴は、賃金テーブルと昇格・昇給の基準を日本人・外国人を問わず全従業員に公開している点にあります。
「うちはこういう賃金テーブルもみんなに話をしていて、『ここを一点下回ったらこうなりますよ』『管理職になればこういう手当がつきますよ』というのは、もう日本人も外国人も同じ扱いです。」と須藤氏は話します。
「日本人と同じテーブル・同じ物差しで、昇格昇給も今やってるような状況です。」
評価の基準が見えないまま働くことは、言語や文化の異なる外国人材にとってとりわけ大きな不安材料になります。照沼では、基準をオープンにすることでその不安を取り除き、「ここで頑張る、同じベクトル向いて働くんであれば、ちゃんと評価しますよ」という明確なメッセージを発信しています。

年2回の評価面談と「降格・減給もあり得る」厳格さ

評価面談は年2回、日本人と同じ基準で実施されます。注目すべきは、昇格・昇給だけでなく、降格や減給もあり得るという運用の厳格さです。
「必ず年2回、日本人と一緒に評価するので、当然、降格とか減給もあり得るよっていう説明を行っています。」
「同じ物差し」で評価するとは、良い評価だけでなく厳しい評価も等しく適用するということです。外国人材だからといって甘くもしなければ、不利にもしない。この姿勢が制度に対する信頼感を支えています。

資格取得支援でキャリアパスを後押し

評価制度と並んで同社が力を入れているのが、資格取得の支援です。業務に必要なフォークリフト免許の取得費用は全額会社負担、中型自動車免許については半額を補助しています。
「フォークリフトは、当社が全て費用を出して取ってもらっています。例えば中型の免許取りたいとなれば、半額補助っていう形で対応しています。」
さらに、特定技能2号の試験に向けたテキストも会社が提供しています。「特定技能2号を目指して頑張ってください」とキャリアの方向性を具体的に示すことで、スタッフが長期的な目標を持てる仕組みを整えています。評価制度で「今」を正当に認め、資格取得支援で「先」を見せる。この両輪が、人材の定着を支えるエンジンになっています。

外国人も含めたリーダー層研修会(写真:企業提供)

勤続11年のインドネシア人課長が組織のハブに

後輩指導・通訳・安全衛生教育を担うフィクリ氏の役割

照沼の組織運営の中核にいるのが、インドネシア出身のフィクリ氏です。技人国の在留資格で来日してから11年目を迎え、現在は課長職に就いています。日本語はほぼ問題なく使いこなし、後輩の指導や新入社員への手続き説明、安全衛生教育の場面での通訳・解説など、多岐にわたる役割を日常的に担っています。
須藤氏は、採用面接の場にもフィクリ氏に必ず同席してもらっていると話します。
「当社の外国人リーダーっていうか、課長職のフィクリ氏に必ず確認して、分からなくなったら説明を聞くというルーティンを行っています。」
候補者にとっても、同じ国の出身で課長を務めている先輩がいるという事実は安心材料になるはずです。フィクリ氏自身に会社のことを聞くと、「この会社で働いていて、よかったです」と穏やかに語り、困りごとがあれば「須藤さんもしくは上司に相談します」と話してくれました。制度だけでなく、人と人との信頼関係がこの会社の受入体制を下支えしていることが伝わります。

(左から)須藤氏、フィクリ氏
フィクリ氏のネットワークが採用チャネルの主軸に

フィクリ氏の存在は、採用面でも大きな効果を生んでいます。彼やその他の外国人従業員の人的ネットワークを通じて、現在は人材紹介会社を介さずに人材が集まる状態になっているのです。
「今はもう紹介会社通さずに、人数確保できているという状況になっています。彼らのネットワークです。」と須藤氏。 「求人もそうですね、現在は積極的に出さなくても、採用計画に支障がない状態です。」
紹介会社を利用した場合、1名あたりの紹介料は決して小さくありません。それが不要になっているという事実は、経営面でも大きなメリットです。そしてこの好循環の起点にあるのは、フィクリ氏が「ここで長く働きたい」「仲間にも紹介したい」と思える職場環境にほかなりません
フィクリ氏自身も、友人に会社を紹介したいかという問いに「紹介したいです。もともと(この職場には)友達がいなかったけど、今一緒に働いている後輩たちが何人かいます。」と答えています。公平な評価制度のもとでベテラン人材が長く働き、その人が後輩を呼び込む。制度と人の好循環が、照沼の採用力の源泉になっています。

懇親会の様子(写真:企業提供)

「特別扱いはしない。でも、配慮は惜しまない」生活面の取組

業務時間内のお祈り許可とプレハブ礼拝堂の設置

同社で働く外国人材の大半はインドネシア出身のイスラム教徒です。同社では、業務時間内であっても礼拝の時間を確保することを認めており、工場のすぐ横にプレハブの礼拝堂を設置しています。
「やっぱりお祈り必ずされるので、それは業務中であっても認めています。工場のすぐ横に、ちょっとしたプレハブなんですけど小屋を用意してフィクリさんにモスク(お祈り部屋)に仕立ててもらいました」
食事面でも配慮は欠かしません。社内の焼肉パーティーでは豚肉を使わないなど、ムスリムの食文化に沿った対応がなされています。
フィクリ氏は「お祈りは毎日しています。仕事中はちょうど休憩とお昼時間にやっていますね。日本人の社員の方は、ラマダンとかインドネシアの文化を知ってくれています。」と話します。
大掛かりな設備投資ではなく、プレハブ小屋の設置や食事メニューの調整といった現実的な工夫で宗教・文化への配慮を形にしている点は、これから外国人材の受入を始める企業にとっても参考になるはずです。「知っていること」「認めていること」が日常の中で自然に伝わる環境をつくることが、信頼関係の出発点になります。

同社に設置されているプレハブ礼拝堂
生活ルールの徹底と社宅・出産育児サポート

配慮と同時に、生活ルールについては厳格な姿勢をときたいっています。ゴミ出しについては、地域との不要なトラブルを避けるため、会社が一括で回収する仕組みを整えました。
「日本は日本のルールがあるんで、そこはきちっと守るように。それ守れなかったら、うちの社宅の方に戻すよという説明をしています。」
生活のルールは厳しく伝える一方、生活そのもののサポートは手厚く整備されています。外国人材にとって来日直後の住居確保は大きなハードルですが、同社では手頃な社宅を用意することでその負担を軽減しています。
さらに、出産・育児に関する行政手続きについては、外国人材から「お母さん」と呼ばれる菊池氏が全面的にフォローする体制が整っています。
「去年出産された外国人もいるんですね。子供のそういう手続きとか、そこはもう会社がもう100%サポートして。菊池さんは外国人たちから『お母さん』と呼ばれているんですけど、そういう人がフォローする体制はあります。」と須藤氏。 お父さん的存在の須藤氏と、お母さん的存在の菊池氏。役割として設計されたものではなく、日々の関わりの中から自然に生まれた人間関係が、この会社の受入体制の温度感を物語っています。

企業の「本音」-外国人材との未来をどう描くか

特定技能2号は在留期間の更新に上限がなく、転職も可能な在留資格です。企業がコストと時間をかけて育成した人材が、2号取得を機に他社へ移ってしまう可能性は制度上避けられません。同社が日本人と同等で公平な評価制度やキャリア支援に力を入れている背景には、「ここで長く働きたい」と思ってもらえる職場をつくること自体が最大の人材流出対策だという考えがあります。
また、同社で勤務した外国人には、国内海外を問わずどんな企業においても通用する人材に育って欲しいという考えがあり、しっかりと丁寧に指導する方針があります。
外国人も日本人も、同社でキャリアを積み上げていく仕組みや雰囲気を大切にされています。
キャリアアップを支援しながらも、転職リスクと向き合う。きれいごとだけでは語れない、経営の現場で日々判断を重ねているリアルな姿がそこにありました。

送別会の様子(写真:企業提供)

株式会社照沼の取組ポイントまとめ

照沼の事例から、外国人材の受入を検討する企業が自社に取り入れられるポイントを整理します。

賃金テーブルと昇格基準を全従業員に公開する

「何をすれば評価されるのか」を可視化することで、外国人材の納得感とモチベーションを確保できる。降格・減給も含めた厳格な運用が、制度の信頼性を高める。

資格取得費用を会社が負担し、キャリアパスを具体的に示す

フォークリフト全額、中型免許半額など、「ここまで支援する」という範囲を明確にすることが重要。特定技能2号のテキスト提供も、長期的なキャリア設計の後押しになる。

ベテラン外国人材を採用面接や安全教育に巻き込み、組織の中核に据える

通訳・後輩指導・採用ネットワークの構築を一人のキーパーソンが担うことで、紹介会社を介さない自律的な採用体制が実現しうる。

宗教・文化への配慮は、大掛かりな投資がなくても実現できる

プレハブの礼拝堂、食事メニューの調整など、現実的な工夫で対応可能。日常の中で「あなたの文化を尊重している」と態度で示すことが信頼につながる。

生活ルールは厳格に、サポートは手厚く

ゴミの一括回収でトラブルを防ぎつつ、社宅提供や出産育児手続きの全面支援で「ここで安心して暮らせる」環境をつくる。

「収穫お疲れさまの会」の様子(写真:企業提供)

担当者の声

同社は今回、茨城県外国人受入優良企業の認定を受けました。須藤氏は認定について、「ルールを守った会社の証明になる」として、優秀な人材へのアピール材料として活用していきたいと話しています。
取材の中では、県の支援制度に対する前向きな姿勢も印象的でした。県から紹介された日本語学習eラーニングシステム(無料)については「ぜひ活用させていただきます」と即答し、その場で行動に移す構えを見せてくれました。
公的な支援制度を積極的に取り入れながら、自社でできることは自社で。同社の姿勢は、外国人材の受入を「特別なこと」ではなく「経営の日常」として捉えている企業の姿そのものです。

外国人材の採用・受入体制の整備でお悩みの企業様へ

株式会社照沼のように、外国人材の評価制度の設計や受入環境の整備に取り組みたいとお考えの企業様は、茨城県外国人材支援センターにご相談ください。
センターでは、専門のアドバイザーが在留資格の選定から採用活動の支援、受入後の定着サポートまでを無料でお手伝いしています。「何から始めればいいかわからない」という段階からでもご相談いただけます。
また、本記事でも紹介した日本語学習eラーニングシステム(無料)や、外国人材向けの生活相談窓口など、県が提供するさまざまな支援メニューについてもご案内が可能です。

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