通訳を交えた全員ミーティング、就業規則の多言語化、テト帰省の柔軟運用-従業員18名の舗装会社が実践する受入体制
茨城県の舗装工事会社が築いた、外国人材との働き方
茨城県行方市に本社を置く前川工業株式会社は、道路舗装工事を主力とする建設会社です。従業員18名のうち6名が外国人材。特定技能2名(ベトナム)、技能実習4名(ベトナム・インドネシア)が在籍し、日本人社員とともに現場を支えています。
建設業界では高齢化と若手不足が深刻化し、外国人材の受入を検討する企業が増えています。しかし、「言葉が通じるだろうか」「安全教育はどうすればいいのか」「文化や宗教の違いにどう対応すれば」-こうした不安を抱え、一歩を踏み出せない企業も少なくありません。
同社も、最初からすべてが順調だったわけではありません。言葉の壁にぶつかり、現場で大声を出してしまうこともありました。それでも、通訳を交えた全員ミーティングで関係を立て直し、就業規則の多言語化、毎月の安全教育、宗教への配慮、テト(旧正月)帰省の柔軟な運用と、一つひとつ受入体制を積み上げてきました。
同社は2026年2月、茨城県が創設した「外国人受入優良企業等認定制度」の第1回認定企業(全16社)に選ばれています。この記事では、同社の取組を担当者の声とともに紹介します。従業員20名以下の中小建設業でも実践できる具体策を、ぜひ自社の参考にしてください。


高齢化と若手不足-外国人材の採用に踏み切った背景
同社が外国人材の採用に踏み切った背景には、建設業界に共通する構造的な課題がありました。
「この業界、高齢化と若手の不足ですかね。日本人の若手のなり手がなかなかいないということで」
担当者はこう語ります。国道や県道の舗装工事を中心に公共工事を多く手がける同社にとって、現場を担う人材の確保は事業継続に直結する問題です。こうした状況から、まずベトナムからの技能実習生の受入を開始しました。その後、技能実習から特定技能への移行も実現し、現在は特定技能2名・技能実習4名の計6名が在籍しています。
さらに近年は、ベトナムからの人材確保が難しくなってきたことを受け、インドネシアからの受入にも踏み出しました。
「ちょっと、変えてみようかなっていう時期でもあったんで、インドネシアにしたんですけど」と担当者。監理団体にとってもインドネシアは初めてであり、企業と監理団体が一緒に新しい国籍の受入に挑戦した形です。岡里氏からは「実家が農業で、インドネシア人も一緒に働いていて、結構積極的だし、日本語も結構覚えてくれるしっていうところで」という後押しもあったといいます。
言葉が通じず大声を出してしまった-通訳×全員ミーティングで現場を立て直す
外国人材の受入において、同社が最も大きな壁として経験したのが、現場でのコミュニケーションでした。
「うちは舗装工事なんで、最初来たばっかりの頃なんかは言葉通じなくて、どうしても大きい声出しちゃったりとか、あるんですよ」
舗装工事の現場は、重機が稼働し、アスファルトの温度管理や転圧のタイミングなど、的確な指示伝達が安全と品質の両方に直結します。日本語が十分でない外国人材に意図が伝わらず、日本人社員がつい声を荒げてしまう場面が生じていました。
転機となったのは、外国人材から相談が上がったことです。担当者はすぐに対応を決断しました。
「相談を受けて、その後は日本人も全員呼んで1回ミーティングとか。そういうのは何回かありますね。通訳も呼んで。」
通訳を介して、外国人材と日本人社員の双方が同じ場で話し合う。外国人材だけに「日本語を頑張れ」と求めるのではなく、日本人社員も含めた全員の問題として向き合ったことがこの取組の核心です。ミーティングは1回で終わらず、必要に応じて複数回実施されました。
その結果について、担当者は「最近はそういうの(声を荒げてしまうこと)はあんまりないかなと思うんですけど」と語ります。
課題が発生したときに放置せず、通訳という第三者を入れた全員参加のミーティングで正面から向き合う。この対応の速さと「全員で」という姿勢が、現場の関係改善につながっています。
就業規則をベトナム語・インドネシア語で自作-「伝わる仕組み」を手づくりで整備
同社では、外国人材に必要な情報を「伝わる形」で届けるための仕組みづくりに力を入れています。その中心にあるのが、就業規則をはじめとする社内規程の多言語化です。
「就業規則は訳してあります。諸規則も一式。」
注目すべきは、この多言語版を社内の担当者が自ら作成しているという点です。
「これは、私がワードの翻訳機能を使って作成したんですけど、組合(監理団体)さんに渡していて、そこからも、インドネシア語・ベトナム語で説明してもらえるようにしてます。」
専門の翻訳業者に外注するのではなく、担当者がワードの翻訳機能を活用して就業規則や賃金規定を多言語化し、さらにその資料を監理団体にも共有。入社時には監理団体の通訳も交えて説明を行う二重体制を敷いています。
社会保険についても、年金機構等が提供する多言語資料を活用して説明しています。取材時、外国人材のイー氏は「契約書は自分で持ってる。内容はOK、賃金・休暇ルールもわかります。社会保険は給料から引かれているの知ってます。」と話しており、しっかり内容を理解しているようでした。
安全衛生教育にも同様の姿勢が貫かれています。同社では入社時に加え、毎月の安全教育を実施。教材には厚生労働省が提供する外国人向け安全衛生教材(ベトナム語等)を活用しています。
現場掲示については、下請けとしての制約があります。
「母国語の表記っていうのは、ちょっと自分のところが元請けならばまだ……下請けが多いんで。」
元請けの現場に独自の母国語標識を設置することは難しいため、「やさしい日本語」を中心とした掲示で対応しています。理想的な環境が整わない中で、使える手段を最大限に活用する。この現実的な判断は、同じく下請け中心の中小建設業にとって参考になるはずです。イー氏も「安全の勉強しました。危ない場所や機械…教えてもらえました。危ない看板、わかります。」と語っています。
テト帰省1か月を許容し「戻ってきてくれる会社」をつくる
外国人材の定着において、同社が大切にしているのは「本人の意思を尊重する」というスタンスです。それが最も端的に表れているのが、テト(ベトナムの旧正月)の帰省対応です。
「まあね、家族を(母国に)置いて来てますからね。子どもも3人いるし。だからなるべくは帰してあげたいです。またすぐ一ヶ月くらいで戻ってきてくれるんで。」
約1か月という長期の帰省を許容する運用は、繁忙期の人員調整を考えれば簡単な判断ではありません。しかし同社では、家族との時間を保障することが結果的に「また戻ってきたい」という気持ちにつながるという考え方で運用しています。
このスタンスは帰省対応だけでなく、キャリア面談の場面にも一貫しています。担当者は半年に1回程度の面談に加え、随時の相談にも対応。「技能実習の子も、特定技能まで頑張りたい子もいれば、一旦母国に帰りたいって子もいる」と、一人ひとりの希望が異なることを前提にした対応をとっています。
「どんどん支援しています。やっぱり帰りたいっていう子には、無理して残ってくれっていう話はしません」
長く働きたい人にはキャリアアップの道を開き、帰国を希望する人にはその意思を尊重する。どちらの選択も否定しないことで、在籍中の信頼関係が保たれています。
評価・昇給については、半期の面談や昇給時に評価を行い、技能実習の検定に合格した際には手当を加算する仕組みも設けています。「能力にも差がありますんで」と一律の基準は設けていないものの、個々の成長を見て対応する方針です。イー氏も将来について「一時帰国して、また日本で仕事します。」と話しており、日本での就労継続を希望しています。

定着を支える地道な取組-宗教配慮・生活支援・自立支援
同社の受入体制は、前述の取組だけではありません。宗教・文化への配慮、生活面のサポート、自立に向けた支援を日常的に積み上げています。
宗教・食文化への配慮と日本人側への周知
インドネシアからの受入開始にあたり、同社が最初に取り組んだのが宗教・食文化への配慮でした。
「(今受入れている)インドネシアの方は、まあ、豚肉がダメなだけですかね。」「忘年会でも無理に勧めないようにとか。」
懇親会や夏の食事会では、豚肉を使わないメニューを用意し、アルコールを無理に勧めない配慮を行っています。
また、日本人社員への周知も欠かしません。「ミーティングの時に言うくらいになっちゃうんですけどね」と控えめに語りますが、インドネシア人材の受入が初めてだった中で、食事配慮やアルコールの扱いについてミーティングで日本人社員に伝えたことは、相互理解の土台づくりとして機能しています。
住まいの確保と生活サポート
生活面では、入社時から日常に至るまで、組合と会社が役割分担しながら支援しています。
入社直後の手続き-市役所への転入届、郵便局での通帳作成などは監理団体が同行して対応。その後の病院受診の付き添いや健康診断の対応は会社が引き受けています。イー氏も「病院のカード、持ってます。会社の人が一緒に来てくれました。」と話しています。
住まいについては、地域の事情に合わせた対応をとっています。「この辺、ちょっと田舎でアパートとかがないんで。」という率直な言葉の通り、会社付近ではアパートの選択肢が限られるため、社宅を活用。その後は借上げアパートに入居し、家賃の一部を給与から控除する形で運用しています。
地域活動への参加と自立支援
地域との接点づくりとして、行方市が実施する一斉清掃(年2回程度)に外国人材も参加しています。ゴミの分別ルールについては多言語パンフレットとQRコードで案内し、「心配なんで、たまにゴミの日はチェックしてます」と、地域トラブルの防止にも目を配っています。
自立に向けた支援も進んでいます。運転免許の取得を後押ししており、特定技能で在籍する同僚の1人はすでに免許を取得し、自分で車を購入して通勤しています。
日本語学習については、AOTS(一般財団法人海外産業人材育成協会)の「現場の日本語 基礎編」を貸し出し、配属直後には社内で2時間程度の学習機会も設けています。無料のeラーニングも紹介し、スマートフォンで自主学習できる環境を整えています。日本語能力試験などの受験についても、本人が希望すれば会社負担で対応する方針です。

前川工業株式会社の取組ポイントまとめ
同社の事例から、外国人材の受入を検討する企業が自社で取り入れられるポイントを整理します。
現場でのコミュニケーション課題は、通訳を交えた「全員参加」のミーティングで対処する
外国人材だけでなく日本人社員も含めて話し合う場を設けることで、問題の放置を防ぎ、相互理解につなげる。
就業規則や社内規程は、ワードの翻訳機能など手近なツールで多言語化に着手できる
完璧な翻訳でなくても「伝わる資料」を用意し、監理団体の通訳と組み合わせることで実効性を確保する。
安全衛生教育は、入社時だけでなく毎月実施する
厚生労働省の母国語教材や「やさしい日本語」での掲示など、公的な無料リソースを積極的に活用する。
宗教・食文化への配慮は、外国人材の意向を確認の上、日本人社員にもミーティングで周知する
事前確認と社内共有の両輪で、トラブルを未然に防ぐ。
テト(旧正月)などの帰省は「なるべく帰してあげたい」の姿勢で柔軟に運用する
長期帰省を認めることが、「また戻りたい会社」としての定着につながる。
キャリア面談では本人の希望を最優先する
長く働きたい人にはキャリアアップを、帰国を望む人にはその意思を尊重する。どちらの選択も否定しない。
運転免許取得や日本語学習の費用を会社が負担し、自立を後押しする
日常の移動手段や語学力は、生活の安定と定着の基盤になる。
住まいは地域の実情に合わせて社宅・借上げアパートを提供する
QRコードからゴミ出しルールを確認できるパンフレットを配布するなど、生活上のルール徹底も図る。
担当者の声
同社では、「文化の違いとかそういうのも、そんなに苦労はしてないですね」と担当者は語ります。ただしそれは、食事配慮や宗教面の事前確認、日本人側への周知、全員ミーティングといった地道な取組を重ねてきた上での実感です。
インドネシアからの受入が始まり、国籍の多様化という新しいフェーズに入った同社。取材の中で繰り返し感じたのは、「本人がどうしたいかを聞いて、それに応える」という一貫した姿勢でした。その姿勢が、従業員18名中6名が外国人材という体制を支えています。
外国人材の採用・受入体制の整備でお悩みの企業様へ
同社のように、外国人材の採用や受入体制の整備に取り組みたいとお考えの企業様は、茨城県外国人材支援センターにご相談ください。
センターでは、専門のアドバイザーが在留資格の選定から採用活動、受入後の定着支援まで、無料でサポートしています。「何から始めればいいかわからない」という段階からのご相談も歓迎です。就業規則の多言語化や安全教育の実施方法、日本語学習支援の活用など、今回ご紹介したような具体的な取組についてもアドバイスが可能です。