言葉より動画で安全を伝える|精密板金加工会社の外国人材受入事例

タイ語の動画マニュアル、理念のタイ語翻訳、資格手当-外国人材8名と同じ仲間として働く仕組みづくり

従業員25名のうち外国人材が9名。精密板金加工の現場から

茨城県境町に本社を置く株式会社飯田製作所は、鉄・ステンレス・アルミの精密板金加工を手がける製造業の企業です。レーザー加工から溶接、曲げ加工、組立まで一貫生産に対応し、ISO 9001・14001の認証も取得しています。
同社では現在、従業員25名のうち9名が外国人材です。在留資格は技術・人文知識・国際業務(技人国)が2名(タイ・ベトナム出身)、特定技能が3名(タイ・スリランカ出身)、技能実習が4名(タイ出身)。全従業員のおよそ3分の1を外国人材が占めています。
この記事では、同社が「言葉よりも動画の方が分かりやすい」という現場の声をきっかけに構築した多言語動画マニュアルの仕組みと、経営理念を軸にした評価・成長の仕組み、そして行政手続きから休日のトラブル対応まで及ぶ生活支援の実践を紹介します。外国人材の安全教育や定着に課題を感じている県内企業の方に、具体的なヒントをお届けできれば幸いです。

(左から)飯田取締役専務、タオ氏

お客様の紹介から始まった外国人材の受入、タオ氏との再会

同社が外国人材を受け入れるきっかけとなったのは、「お客様からの紹介でした」という担当者。
初めは技能実習生としてタオ氏を雇用し、そこからタオ氏との縁が始まったという。タオ氏は技能実習の終了後にタイへ帰国しましたが、その後、同社がタイ・バンコクの展示会に出展する機会があり、同社からタオ氏に「現地で展示会に出展するので、手伝ってもらえないか」と連絡したことがきっかけで、タオ氏が再び飯田製作所で働くことになりました。
タオ氏がエンジニアとして日本に戻る際、彼の友人も同社で働きたいという希望があったため、一緒に現地の展示会を手伝ってもらい、その友人も同社に入社することになりました。担当者にとってその「友人」は初対面でしたが、「現地で一緒に食事をしながら人となりを知る機会があったことが、受入への安心感につながった」といいます。
また、経営者の勉強会で知り合った社長からの紹介で、スリランカ出身の特定技能人材(日本語能力試験N2所持)の採用も進んでいます。処遇面では「ちょっと割高にして設定して、うちに決めるって言ってもらいました。」と、競合する他社よりやや高めの条件を提示して採用を決めたとのこと。海外展示会での直接接点と、経営者ネットワークを通じた紹介という、複数の採用チャネルを活用しています。

当時の経緯を話すタオ氏(右)

「言葉よりも動画で」-多言語動画マニュアルとQRコードによる安全教育

同社の取組で最も特徴的なのが、YouTube限定公開とQRコードを組み合わせた多言語動画マニュアルです。その背景には、紙の資料だけでは現場の安全を十分に伝えきれないという課題がありました。

OJTを補強するYouTube限定公開動画とQRコード

同社の安全教育は、機械や作業ごとの個別指導-つまりOJTが基本です。
「機械によって作業によっての安全教育が違うので、基本はOJTで教えていく形になるんですね。この作業のここの部分は危ないから気をつけるんだぞ、というところを個別に話していく。」
しかし、文章ベースの教材では外国人材に伝わりにくい場面がありました。そこで始めたのが、動画マニュアルの制作です。現場責任者は「言葉よりも動画で、動画でそれを見れば分かるようにっていうことでやってる」と、動画化に踏み切った理由を語ります。
撮影した動画はYouTubeに限定公開でアップロードし、URLをQRコードに変換して機械の近くに掲示しています。作業者はiPad等でQRコードを読み取り、その場で動画を再生して手順を確認できます。「全体的に公開すると問題になってしまうので、URLを知っている人しか見れないような上げ方をしている」と、情報管理にも配慮した運用です。
動画は今のところタイ語版と日本語版の両方を用意し、外国人材だけでなく日本人社員にも活用されています。現在は各部署に対して工程ごとの動画マニュアルの作成を依頼し、順次整備を進めている段階です。

タイ人リーダーが母語で解説する「先輩が教える動画」

動画マニュアルのもう一つの特徴は、タイ人リーダーのゴット氏が母語で解説する動画を制作していることです。「ガスの開け方からタイ語で説明してもらって、動画で話してもらう」という形で、ロボット溶接機の操作手順などをゴット氏自身がタイ語で解説しています。
外部の翻訳サービスや専門ツールに頼るのではなく、同じ現場で働く先輩が母語で教える。この方法は、言語面の理解しやすさに加え、視聴者に「先輩が教えてくれている」という安心感を与えることにもなっています。

社外の「安全道場」で危険を体感する研修

動画やOJTに加え、同社では社外の体験型安全研修も活用しています。「他社が主催している安全道場に、技能実習生も含めて、みんなで行かせてもらった」と担当者は話します。安全道場では巻き上げや漏電などの危険を実際に体感でき、映像や言葉だけでは伝わりにくいリスクを身体で理解する機会になっています。
また、大手自動車メーカーの安全担当者を招いた工具指導セミナーも受講。社内のOJTと動画に加え、社外の体験型研修を組み合わせることで、多層的な安全教育体制を築いています。プレスブレーキ、ロボット溶接、アーク溶接といった特別教育の実施記録と写真も整備されています。

ベンダー周辺の危険箇所をタイ語掲示で可視化

現場の危険箇所には、タイ語での掲示物も設置しています。「ベンダーって言われる機械で、金型で挟んで曲げるので、結構作業的には危なかったりする。こういう持ち方をすると危ないよとか、そういうものをタイ語に変えて貼らせてもらっている。」と担当者は説明します。V字の刃で板を曲げる際の挟まれやすい局面を図とタイ語で示し、作業者がひと目で危険を認識できるようにしています。

経営理念「一流のプロを目指す仲間」を多言語で共有する評価・成長の仕組み

安全教育の充実を支えているのが、経営理念を軸にした評価・成長の仕組みです。同社では理念の「翻訳」にとどまらず、評価・賃金・日常の運用まで一貫して落とし込んでいます。

理念と評価項目のタイ語翻訳・朝礼での共有

同社の経営理念は「一流のプロを目指す仲間」。
「一流のプロって何かっていうところをここ(経営理念)に書いてあるので、そこも評価の一つになるんです。」
この理念を具体的な評価項目に落とし込み、事業計画書としてタイ語に翻訳して外国人材に配布しています。「技能技術もそうなんですけど、どちらかというと人間力の部分を大事にしていまして。目標を持っている人とか、時間を守れる人とか」―評価の軸は技能だけでなく、仕事に向き合う姿勢にも置かれています。
朝礼では「職場の教養」という冊子を活用し、外国人材は最終段落をひらがな版で読み上げます。企業担当者は「この職場の教養を、アパートに持ち帰って練習してもらって。ひらがなついてて丁度良いです。」と話し、朝礼の冊子が日本語学習の教材にもなっています。

資格手当・改善提案で努力が賃金に反映される設計

評価を「見える化」する仕組みとして、同社は資格手当を導入しています。溶接の専門級で月2,000円、板金2級で月1,000円、フォークリフトで月1,000円など、業務に関連する資格の保有に手当を支給。ただし、「持ってるだけじゃダメだよって。使ってる人は月1,000円ね」と、実務で活用していることが条件です。
改善提案にも報奨があり、1件につき500円が支給されます。委員会活動を通じて提案を促す仕組みも設けられています。さらに、日本語能力試験(JLPT)の結果を資格手当に組み込むことも検討中で、すでにN3合格の実績がある外国人材もいるとのことです。

年3回の1on1と「気づきノート」で声を拾う

評価や処遇に加え、外国人材の考えや希望を把握する仕組みも重視されています。年3回の1対1ミーティングは日本人・外国人の区別なく全社員が対象で、昇進・配属・将来の志向をすり合わせる場です。
「日本でずっといたいか、それとも何年したら帰りたいとか、その社員によって考え方が違うので、そこは共有しておく必要がある」と担当者は話します。一人ひとりの将来設計に合わせた対話を重視する姿勢がうかがえます。
日常的な声の吸い上げには「気づきノート」を活用。外国人材を含む全社員が週1回提出し、社長が目を通してコメントを返しています。希望や悩み、日頃考えていることを文字にする習慣が、面談だけでは拾いきれない声を届ける仕組みになっています。

日本人と外国人を混ぜたチームで一体感をつくる-朝礼コンテストと委員会活動

同社では年1回、社内朝礼コンテストを実施しています。
「部署ごとに固まっちゃうのは良くないと思って、日本人・外国人関係なくチームを編成しています。」
笑顔や姿勢などの評価項目で点数をつけ、チーム対抗で競います。順位によって賞金に差がつき、「一番ビリのチームでも賞金は渡すんですけど、金額が全然違う。ステーキとラーメンくらいの差」とのこと。
各チームは「全員で優勝するぞ」と意気込みます。社内の枠を越えた目標を全員で共有することが、チームの一体感を高めています。
このほか、バーベキューや緑化活動(草取り・ゴミ拾い)を運営する委員会活動も、日本人と外国人が一緒に取り組む交流の場として機能しています。
また、日本人社員向けの異文化理解にも取り組んでいます。
社内共有資料には、「タイでは人の頭は精霊が宿る場所とされ、触ることは大変失礼にあたる」「人前での叱責を特に嫌う」「『国に帰れ』という言葉は絶対に言わない」といった注意事項を記載し、相手の国の簡単な挨拶も掲載。日本人側の理解を促す仕組みを整えています。

日本語学習を多方面から支援する

外国人材の日本語学習を、同社は複数の方法で支援しています。
技術・人文知識・国際業務で入社したベトナム人エンジニアは、来日時に日本語がほとんどできない状態でした。そこで同社は、知人のベトナム人学校長に依頼し、「週に3回、2時間ずつ、3か月」の日本語レッスンを実施。費用は会社と本人で折半しました。また、町の日本語教室への通学も支援しています。
学びを「贈る」ユニークな仕組みもあります。毎月、誕生月の社員に3,000円分の好きなものを贈るレクリエーション委員会の制度があり、タイ出身のタオ氏はN2の問題集を希望したそうです。学習意欲を会社の仕組みが自然に後押ししている一例です。
技能実習生については、監理団体での約3か月の入国前・後研修で日本語や生活ルールの基礎を学んでから配属されます。「日本のルールの大体のところは、そこで教えていただく形になる。本人たちは把握してきている」と担当者は認識しており、入国前研修と入社後のOJTの役割分担がなされています。

誕生日プレゼント授与の様子(写真:企業提供)

「会社に相談すれば何とかなる」-行政・医療・生活を丸ごと支える伴走支援

同社の生活支援は、制度的な手続きのサポートにとどまりません。「住民課の窓口まで連れて行きますし、そこはやってますね。」と担当者が話すように、行政手続きへの同行、病院の送迎と通院同行、銀行口座の開設やカードの手続き支援など、日常生活のあらゆる場面をカバーしています。
対応は休日や年始にも及びます。「お正月にもガスが止まったのでアパートまで行った」と企業担当者。クレジットカードの紛失、暗証番号忘れ、トイレの水回りのトラブルまで、困ったことがあれば会社が対応する体制です。外国人材本人の視点では「会社に相談すれば、ある程度(解決するので)行政の相談窓口へ行く必要ない。」と思えるほどの安心感が生まれています。
住居面では、会社が契約する社宅を用意しています。職場から自転車で5〜6分の距離にある2LDKのRC造リノベーション済みアパートで、すでに3室を確保し、追加も予定しているとのことです。
地域との関係づくりにも気を配っています。ゴミ出しルールは、町が作成した資料をAIで翻訳して外国人材に配布。「近隣から『飯田製作所さんの社員さんじゃないですか』と指摘いただき、アパートまで行ったこともある。改めて『こういう出し方はダメです』という話をしました」と、トラブルには即時対応で信頼関係を保っています。
宗教や文化への配慮については、「無理強いはしないです」が基本姿勢。初詣など日本文化に触れる機会は設けつつ、参加を強制することはありません。

外国人材の声-「この会社で働いてよかった。友達に紹介しました」

タオ氏は、「この会社で働いてよかった。友達に紹介しました。」と話します。契約書の内容やルールブックは日本語とタイ語の両方で受け取り、内容を理解しているとのこと。給与や休日、保険の控除についても把握しており、昇給の条件も知っていると答えています。困ったときは「友達か会社の人」に相談し、会社の食事会やバーベキューにも参加、緑化活動にも日頃から取り組んでいるそうです。
安全教育も受け、危険を示す看板も読んでいるとのこと。上司とは日頃から話ができる関係が築かれています。
担当者は今後の展望として、動画マニュアルの全工程への整備と更新、日本語能力試験の手当への正式組み込み、キャリアパス(主任・係長等)の明文化を挙げています。外国人材一人ひとりの将来を見据え、仕組みの整備を続けていく構えです。

社員旅行の様子(写真:企業提供)

株式会社飯田製作所の取組ポイントまとめ

安全教育の動画化

紙の教材で伝わりにくい作業手順を、YouTube限定公開+QRコードで「その場で見られる」動画に。タイ語版・日本語版を用意し、外国人材にも日本人社員にも活用する

母語で教える先輩動画

外国人リーダーが母語で操作手順を解説する動画を撮影し、「先輩が教える」空気感ごと伝達する

理念を翻訳して評価に接続

経営理念を具体的な評価項目に落とし込み、タイ語に翻訳して配布。何が評価されるかを明示する

努力を賃金に反映する手当設計

資格手当は「実務で使っていること」が条件。改善提案やJLPT合格も報奨・手当の対象に

1on1と気づきノートで声を拾う

年3回の面談と週1回のノート提出で、キャリアの希望や日常の悩みを継続的に把握する

日本人・外国人混成チームで一体感

朝礼コンテストや委員会活動で部署・国籍を越えた交流を設計し、「仲間」意識を育てる

生活を丸ごと支える伴走

行政手続き、病院、住居、ゴミ出しルール、休日のトラブル対応まで-「会社に相談すれば何とかなる」環境をつくる

外国人材の採用・受入でお悩みの企業様へ

同社は、茨城県が令和7年度に創設した「茨城県外国人受入優良企業等認定制度」の第1回認定企業(全16社)の1社です。
同社のように、外国人材の採用や受入体制の整備に取り組みたいとお考えの企業様は、茨城県外国人材支援センターにご相談ください。専門のアドバイザーが、在留資格の選定から採用活動、受入後の定着支援まで無料でサポートいたします。毎週火曜日には行政書士による無料相談会も開催しています。

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