会社負担の日本語教育と2号試験対策。製造現場で週2回の学びを実現するまで
従業員の4割が外国人材。建機部品メーカーが取り組む「その先」の支援
茨城県笠間市に工場を構える株式会社汎建製作所 北関東工場。1923年(大正12年)創業の同社は、建設機械や農業機械に使われる燃料タンク・作動油タンク・マフラなどの金属製品を製造しています。北関東工場の従業員81名のうち、外国人材は35名。インドネシア・ベトナム・フィリピンの3カ国から、特定技能を中心に受け入れており、従業員のおよそ4割を外国人材が占めています。
特定技能1号の在留期間は最長5年。その期限が近づく人材が増えるなか、同工場が力を入れているのが、特定技能2号への移行を見据えた育成支援です。会社負担で日本語学校へ委託し教育を行い、希望者には2号試験対策のビジネス・キャリア検定講座も提供する-その取組が評価され、同工場は2026年2月、茨城県外国人受入優良企業等認定制度の第1回認定企業(優良企業)に選ばれました。
人手不足に悩む製造業の企業にとって、特定技能人材の受入後、次のステップをどう設計するかは共通の課題です。この記事では、汎建製作所 北関東工場の具体的な取組を、担当者と外国人材本人の声を交えて紹介します。

派遣から直接雇用へ-北関東工場が特定技能を選んだ経緯
汎建製作所の本社は奈良県。1990年代から技能実習生を受け入れてきた長い歴史があります。一方、2006年に稼働を開始した北関東工場では、コロナ禍以前から派遣社員として外国人材を活用していました。
「北関東の工場は、特定技能から始めました」と担当者は話します。本社の受入経験を踏まえ、本社から「やってみたらどうだ」という後押しもあり、2022年に特定技能での直接雇用に踏み切りました。現在、特定技能で約31名、技術・人文知識・国際業務で3名、永住者1名を受け入れています。工程はピッキングから溶接、塗装、組立、出荷まで一貫して自社で行っており、各工程に外国人材が配置されています。
「まず2号にならないと」-キャリアアップから逆算した育成の仕組み
会社負担で日本語学校に委託、レベル別クラスで学ぶ
同社では、外国人材の日本語教育を会社負担で日本語学校に委託しています。受講者の習熟度に応じてレベル別のクラスに分け、それぞれのペースで学習を進められる環境を整えました。
「日本語のレベルは確認して採用しているので、言語の部分での大きな課題はないですね」と担当者は言います。職場では日本人との会話も基本的に日本語で成り立っており、同国出身者同士では母国語も使います。採用時点で一定の日本語力がある人材を迎えているからこそ、日本語教育の目的は日常会話の補強ではなく、特定技能2号への移行やより高度な業務遂行を見据えたスキルアップに置かれています。
インドネシア出身のラフリ氏(特定技能)は、「今は会社負担のオンラインクラスをやっています。週1回オンラインで日本語の勉強をしています。」と話してくれました。

特定技能2号試験対策-ビジネス・キャリア検定への挑戦を支える
工業製品製造業分野で特定技能2号に移行するには、ビジネス・キャリア検定3級の合格と特定技能2号評価試験の合格が必要です。同社では、2号移行を希望する人材に向けて、ビジネス・キャリア検定の対策講座も提供しています。
この講座を担当する外部講師は自らビジキャリを受験し、その実体験を外国人材に伝えています。試験の傾向や学習のポイントを、受験者の立場から具体的に共有できる体制です。日本語教育と合わせると、週2回の学習機会が確保されていることになります。
ただし、担当者は2号移行の見通しについて冷静です。
「2号になりたいって言う社員は多いんですけど、現実的に考えたら多分(合格できるのは)2割ぐらいです。」
2号移行には試験の壁があり、全員が到達できるわけではない。それでも同社が育成支援を続ける理由を、担当者はこう説明します。
「基本的に特定技能の方のキャリアアップっていうのは、2号にならないと難しいんです。リーダーになりました、でも1年後にビザ切れますっていうとダメなので、まず2号にならないと。」
在留期限のある1号のままでは、どれだけ優秀でもリーダーへの登用が難しい。2号への移行は、外国人材のキャリア形成と、工場の組織づくりの両方にとって不可欠なステップなのです。
入社時から整える受入基盤-多言語対応と現場の安全教育
安全教育資料を自社で3カ国語に翻訳
製造現場では安全教育が欠かせません。同社では、入社時の安全教育に使う資料を自社で作成し、インドネシア語版を含む3カ国語で整備しています。
担当者によると、資料には工場で製造している製品の概要、工程の一覧、部署や役職の説明に加え、重量物の取扱い注意、溶接時の注意事項、服装やマスクの着用ルール、喫煙所の場所まで網羅されています。危険箇所についても一覧を作成し、駐車場の段差やクレーンエリアへの立入禁止など、入社時に一つひとつ説明しています。
「掲示しているものもあれば、掲示していないものもあります。現場での案内で徹底しています」と担当者。一覧表と現場案内を組み合わせることで、紙の掲示だけに頼らない安全教育を実現しています。
雇用契約書は3カ国語で用意、人事評価は日本人と同じ運用
雇用契約書はインドネシア語・タガログ語・ベトナム語の3カ国語で用意しています。登録支援機関のフォーマットをもとに翻訳したもので、社会保険等の説明も登録支援機関が契約時に行っています。給与明細は本人がシステムにログインして確認する仕組みです。
人事評価は5段階で、態度・能力・成績・出勤率などを評価項目としています。年2回実施し、そのスコアが賞与と昇給に反映されます。特定技能人材も日本人社員も、基本的に同じ評価の仕組みで運用しています。
「厳しい人もいれば優しい人もいる。そのばらつきを経営層で最終調整します」と担当者。一次評価を上司が行った後、面談で内容を本人に説明し、最終的に経営層がバランスを調整するプロセスを経ることで、評価の公平性を担保しています。
現場資格は「取らせている」-フォークリフト・玉掛け・クレーンを会社負担で
現場作業に必要なフォークリフト、玉掛け、クレーンの資格については、特定技能人材にも全員取得させています。費用はすべて会社負担で、取得後には資格手当も付与しています。
担当者の言葉は明快です。
「取得支援というか、もう資格を取らせている。フォークリフト、玉掛け、クレーンは現場にいる子たちは会社負担で取らせています。」
外国人でも受け入れてくれる講習機関を利用し、母国語のテキストで受講できる環境を確保しています。
日本語教育、2号試験対策、そして現場資格。会社負担による三段構えの育成投資が、特定技能人材のスキルアップとキャリア形成を支えています。
宗教・文化への配慮と生活支援-現場主導の柔軟な運用
ラマダン時の休憩再配置と礼拝スペースの確保
インドネシア出身の人材が多い同社では、イスラム教の慣習への配慮も現場主導で行っています。
ラマダン(断食月)の時期には、18時から休憩時間を設け、日没後に食事が取れるよう配慮しています。時期は毎年変わるため、その都度現場で対応を調整しています。
礼拝については、専用の礼拝室は設けていないものの、更衣室の一角を広めに確保し、礼拝マットを常備しています。担当者は宗教への向き合い方をこう語ります。
「お祈りも宗教、彼らの信仰ですから、自分の時間でやっていいよと。その代わりに節度あるお祈り。行きますよって2時間帰って来ないのはダメだよと。」
信仰を尊重しつつ、業務との両立ラインを明確にする。この率直なルール設定が、現場での運用を支えています。
社宅の確保、病院同行、グループLINEでの日常サポート
生活面の支援も手厚く行っています。社宅は会社名義で笠間市岩間エリアに一括契約しており、一人一部屋を確保。病院への同行や、市から届く文書の読解支援も総務部門が対応しています。
日常の連絡には、国籍別・部署別に分けたグループLINEを活用しています。通訳が可能な社員もグループに参加しており、業務連絡だけでなく、長期休暇前の注意喚起(鍵の管理や防犯など)も一斉に配信できる体制です。
なお、生活立ち上がり期で最も苦労するのは意外にも言葉ではないそうです。
「言語の課題はないですね。むしろ最初の2週間、ゴミの分別が一番苦労します」と担当者。笠間市のゴミ分別ルールを説明する資料を自社で作成し、入社時のオリエンテーションで使用しています。笠間市の外国人材支援センターとも連携し、地域の行政サービスも活用しながら、外国人材の生活を支えています。
部署を越えたフットサル交流と、県認定制度への挑戦
職場での交流にも特徴があります。インドネシア出身の人材が中心となり、日本人社員や他部署のメンバーも交えたフットサルが行われています。忘年会などの懇親行事も継続しており、業務外の場での関係づくりが進んでいます。
また、職場見学の受入れにも前向きです。「職場見学は随時受け付けているので、希望があれば対応する体制はとっております」と担当者。特定技能人材の求人は登録支援機関を通じて行い、新卒採用は自社HPで案内しています。
県の認定制度へのエントリーについて、企業担当者はこう振り返ります。
「うちは元々ずっと外国人材を採用しているので、認定はアピールにもなるかなと。」
本社からの情報がきっかけでエントリーし、2026年2月に茨城県外国人受入優良企業等認定制度の第1回優良企業に認定されました。

株式会社汎建製作所 北関東工場の取組ポイントまとめ
同社の取組から、他の企業でも自社の受入体制を見直す際のヒントになるポイントを整理します。
2号移行を見据え、日本語学校への委託教育を会社負担で提供する
レベル別クラスで、それぞれの習熟度に合った学びの場を用意する
希望者にビジネス・キャリア検定の対策講座を実施する
講師自身の受験経験を共有することで、試験のリアリティを伝える
入社時の安全教育資料を自社で多言語化する
危険箇所一覧と現場案内を組み合わせ、紙だけに頼らない安全教育を行う
現場資格(フォークリフト・玉掛け・クレーン)は会社負担で全員に取得させる
資格手当も付与し、スキルアップを処遇に反映する
人事評価は日本人と同じ仕組みで運用する
評価者間のばらつきは経営層が調整し、公平性を担保する
宗教配慮は「節度あるルール」を明確にした上で、現場主導の柔軟な運用を行う
社宅確保・病院同行・グループLINE等で生活面を会社がサポートする
初期のゴミ分別指導など、細かな生活支援が定着の土台になる
担当者の声
同社では今後も、特定技能2号への移行支援を軸に、外国人材の育成と定着に取り組んでいく方針です。日本語教育とビジネス・キャリア検定の合格支援を継続しつつ、安全掲示の多言語化や、生活ルール資料の整備についても自治体と連携しながら進めていくとのこと。
2号移行を目指す外国人材の声と、「まず2号にならないと」という企業の覚悟。その両方が重なる現場に、製造業における外国人材の長期的な活躍のヒントがあります。
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